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あなたと選ぶ北海道重大ニュース【わたしと北海道150年】

作家・桜木紫乃さん

写真: 拡大

写真:地元のコーヒー店のカウンターに座る桜木紫乃さん=27日午後、江別市、白井伸洋撮影 拡大地元のコーヒー店のカウンターに座る桜木紫乃さん=27日午後、江別市、白井伸洋撮影

 ●作家・桜木紫乃さん(52)

 ■因習縛られず自由な感覚

 駒大苫小牧高校の甲子園優勝が印象深いですね。特に選手たちが飛行機で帰ってきた時、客室乗務員の方が「深紅の大優勝旗も皆さまとともに津軽海峡を越え、まもなく北海道の空域へと入ります」とアナウンスし、機内が拍手に包まれたというエピソードに、とても感動したことを覚えています。

 津軽海峡を越える――。「北海道150年」と聞いてまず思い浮かんだのは、北海道に暮らす人たちは皆、いろいろな思いを抱えて、この「しょっぱい川」を渡ってきたんだな、ということでした。

   □  ■  □

 母方の祖母は秋田出身で、自分のことをほとんど語らない人でした。昭和10年代に祖父と北海道に渡ってきたものの、願っていた暮らしはかなわなかったようでした。私が子どもの頃は標茶の工事現場で飯場のまかないをしていて、週末になると釧路で理髪店を営む私の両親のもとに来ることが多かった。覚えているのはお酒が好きだったことと、字が読めなかったこと。とても苦労したはずですが、自分から話すことはないし、周囲も聞かない。いつも遠慮深くて、身の置きどころがないような感じで振る舞っていたことが印象に残っています。そんな祖母の人生を想像を交えて書いたのが、最初に直木賞候補になった小説「ラブレス」でした。開拓で北海道に渡り、貧困の中から波乱に満ちた人生を生きた3世代の女性たちの愛憎の物語。自分では、「親戚の中にこういう人いたよね」という、よくある地味な話を書いたつもりでしたが、内地の人にはとても驚かれて戸惑いました。

 北海道は、新しい自分の歴史を作ることができる土地だったのだと思います。「どこへでも行ける」という強い気持ちを持った人たちが、故郷などのしがらみを捨て、津軽海峡を越えて新しい人生を築こうとやってきた。成功した人はいいですが、うまくいかなかった人にしてみれば、語れない、語りたくないこともたくさんあったはずです。自分の祖父母らの生い立ちは知らない、気にしない人って、北海道に多くないですか? これって道民気質のような気がします。私には、出自や因習などに縛られない、自由でドライな感覚が楽に感じることが多い。書くという仕事を続けていられるのも、そんな北海道に生まれたことが大きいと思います。

   □  ■  □

 自分の原点は、やはり生まれた釧路です。いつも目の前に湿原が広がっていた。この時間に太陽が昇ると、あの辺りに日が沈むというのがわかる。150年前の人も同じような風景を見たのだろう、と想像できます。一方、久しぶりに帰ると湿地に木が生え、風景が少しずつ変わっていくことにも気づく。変わらぬものと変わるものの中で人が生きている。同じ風景を見て育っても違うことを考え、近くにいてもわからないことだらけ……。そんな距離と時間の問題が私の小説のテーマの一つかも知れません。

 時々、北海道にいたらできないことって何だろう、と考えます。それを一つ一つつぶしていくと、案外できないことはないんじゃないか、という気がしてきます。将来も北海道がそんなチャンスや可能性を感じられる場所であってほしい、と思います。私たちは「どこにでも行ける人たち」の子孫なんだから、いつだって、どこにだって行けるんです。でも、「好きだからここにいる」と言えたら一番いいですよね。

 (聞き手・山内浩司、撮影・白井伸洋)

 【桜木さんが選んだ北海道150年の重大ニュース】(年代順)

<1980年> 釧路湿原が、湿地の生態系を守るラムサール条約の国内初の登録湿地に

<1988年> 青函トンネルが開通、北海道と本州がレールでつながった。青函連絡船は廃止

<2004年> 駒大苫小牧高校、夏の甲子園で道勢初の優勝。翌年は連覇、06年は準優勝

<2016年> 北海道新幹線(新函館北斗―新青森)開業

<2016年> 観測史上初めて三つの台風が上陸、被害額が「56水害」を上回る

     *

 さくらぎ・しの 1965年、釧路市生まれ。江別市在住。2002年、「雪虫」でオール読物新人賞受賞。13年に「ホテルローヤル」で直木賞受賞。多くの作品で北海道で懸命に生きる男女の姿を端正な筆致で描いている。最新長編「砂上」(17年)では、江別を舞台に、作家として「書くこと」の原点に迫っている。

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