メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

04月24日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

水曜「働く・暮らす」【けんこう処方箋】

「感情規則」に向き合う看護師 大日向輝美

写真: 拡大

写真: 拡大

写真:<イラスト・佐藤博美> 拡大<イラスト・佐藤博美>

 ●札幌医大保健医療学部長 大日向輝美 

ある日の夕方、看護師2年目の教え子がひょっこり大学に顔を出した。悩み事があるらしく、表情はさえない。

 話はこうだ。最近彼女の病棟には、忙しい時に限って看護師を呼び付け、しつこく訴えを繰り返す患者が入院している。彼女はいら立ちや怒りを表に出さないように努めているが、一方で、自分の感情に罪悪感を抱き、自己嫌悪に陥っている。彼女の悩みは、看護が「感情」に関わる仕事であることに起因している。

 接客・医療・教育などの対人サービス職には、職務にふさわしい感情が期待されている。これを「感情規則」という。1980年代、米国の社会学者A・ホックシールドは、感情規則に照らして感情管理を必要とする仕事を「感情労働」と定義した。感情労働の担い手は、自分の感情を制御して相手にとって適切であるように外面を整え、その人の内に好ましい感情変化を引き起こす役割を担う。

 看護は感情労働の代表格といえる。看護師は病や死という苦難に直面している人々と至近距離で接し、不安・恐れ・怒りなど様々な感情にさらされる。こうした感情を直接向けられるのは、医師よりも看護師だ。看護自体が患者の生活という全人格的な営みに寄り添うものだからである。

 日本赤十字看護大の武井麻子名誉教授によれば、看護師に課せられる感情規則は多様だ。「優しく親切に」「接する時はにこやかに」など好意的であることを求めるもの、「怒ってはいけない」「泣いたり取り乱したりしてはいけない」など感情的になるのを禁ずるもの、「患者の気持ちに共感せよ」と個人への関心を求めるものなどがある。

 感情労働者に、規則から外れる感情の表出は許されない。だから看護師は、感情を制御して振る舞うことを覚える。看護師のこうした言動は、患者の不安を軽減し、安心感をもたらしたり意欲を引き出したりする治療的な作用もあるから、質の高いケア提供に不可欠なものでもある。

 しかし、看護師も人間だ。思わず感情的になることも、重い訴えに逃げ出したくなることもある。感情労働による精神的負担の大きさは、離職要因の一つになっている。

 とはいえ多くの看護師は、その場にふさわしい感情に合わせて振る舞い、望ましい感情に感じ方そのものを変えていく方策を身に付けて、感情労働に適応していく。

 件の教え子は、相手と自分の感情に向き合い続け、まもなく3年目の春を迎える。

PR情報

ここから広告です

北海道報道センターから

北海道アサヒ・コムへようこそ。
身のまわりの出来事やニュース、情報などをメールでお寄せ下さい(添付ファイルはご遠慮下さい)
メールはこちらから

朝日新聞 北海道報道センター 公式ツイッター

注目コンテンツ