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憲法の現場から【憲法の現場から】

(3)長沼訴訟

写真: 拡大

写真:福島重雄さん。「既成事実を重ね、それに合わせて憲法を変えようなんて本末転倒です」=富山市 拡大福島重雄さん。「既成事実を重ね、それに合わせて憲法を変えようなんて本末転倒です」=富山市

写真:農業を営む町議の薮田享さん。指さす方向に航空自衛隊の長沼分屯基地がある=長沼町 拡大農業を営む町議の薮田享さん。指さす方向に航空自衛隊の長沼分屯基地がある=長沼町

 ■「自衛隊は戦力」、違憲判決

 裁判官は独立して職権を行う、と憲法は定める。ところが「アドバイス」として、ある訴訟の判断に触れる手紙が上司から届いた――。札幌地裁の判事だった福島重雄さん(87)が担当する「長沼ナイキ基地訴訟」でのできごとだ。

 航空自衛隊のミサイル基地を長沼町内に建設するための国による保安林指定解除を取り消すよう、地元農民らが求めた行政訴訟。指定解除には「公益上の理由」が必要だが、憲法9条2項に違反する自衛隊の基地設置は該当しない、と原告側は主張していた。

 一方、上司の手紙は、裁判所も保安林指定を解除した国の判断を尊重すべきだとして、結果的に自衛隊の違憲判断の回避に道を開いていた。「今で言えば、忖度(そんたく)しろということでしょうか」。福島さんは言う。

 札幌地裁は自衛隊について実体を調べ、「憲法9条2項で保持を禁じられた戦力に該当する」として違憲だと明確に示した。福島さんが裁判長として書いた1973年の判決だ。

     ◇

 低湿地帯の長沼は水害に苦しんできた農業の町だ。水害を食い止め、田畑に必要な恵みの水をもたらしてくれるのが、基地建設地の丘陵に茂る保安林だった。「伐採は許せない。しかもなぜ長沼にミサイル基地が必要なのか」。同町で農業を営む薮田享さん(68)は基地計画に驚き、反対運動に加わった。

 町内の有志数人で立ち上げた「長沼平和委員会」はピーク時、20人くらいに増えたと記憶している。原告団を支えようと、裁判がある日は札幌に通った。傍聴券を得るため、札幌地裁の前に張ったテントで多くの仲間が夜を明かし、代わる代わる傍聴に入った。

 冷戦下、基地があることで米国の敵国に狙われれば平穏な生活が奪われかねない。判決は憲法前文の「平和のうちに生存する権利」が裁判により保障される権利であることも認めた。

 判決を知った薮田さんは「私たちの主張を正面から受け止めてくれたことに尊敬の念がわいた」という。

 だが国の控訴による二審で、札幌高裁は住民側に訴えの利益がないとして却下。住民側は上告したが、最高裁は棄却した。高裁も最高裁も、憲法判断に踏み込まなかった。

     ◇

 一審判決から45年。共産党町議の薮田さんは、今も基地問題を町の重要課題として取り上げ続ける。ただ、かつて一緒に基地反対を訴えた仲間からは「もう、いいべ」と言われることも。「高裁、最高裁で主張が認められず、戦った意味を見いだせなくなって、熱が冷めちゃったか」

 福島さんも「あのころは憲法を順守しようという国民の気持ちが強かった」と言う。憲法と現実の矛盾が続き、それが当たり前と受け止められるようになってきた、と残念がる。

 自民党は3月、憲法9条に自衛隊を明記するなど改憲4項目をまとめた。「既成事実を重ねて、それに憲法を合わせようというのは本末転倒だ」

 長沼判決の後は東京地裁手形部や家裁に勤め、59歳で退官。「冷や飯を食わされた」との思いはあるが、故郷の富山で弁護士として働く今も、判決は「後悔するくらいなら最初からやらない」と話す。いま同じ訴訟が提起されたとして、裁判長だったらどうするか。「同じ判決です。憲法が変わらない限り」

 (片山健志)

 ■憲法9条

 (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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