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水曜「働く・暮らす」【けんこう処方箋】

子の終末期、桜の季節に思う 大日向輝美

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写真:<イラスト・佐藤博美> 拡大<イラスト・佐藤博美>

 ●札幌医大保健医療学部長 大日向輝美

 桜の季節になると思い出す光景がある。小児科病棟の看護師だった時のものだ。

 小児がんで余命短い小学校低学年のA君。発症から入退院を繰り返し、入学式も病室が会場だった。家や学校での時間より病院での暮らしが長くなった年月。徐々に病状は悪化し、ほとんど病室から出られない状態となった。

 ベッドの周囲にはA君が自分で貼ったたくさんのスナップ写真。その中にひと際目を引く1枚があった。満開の桜の下で家族4人が満面の笑みを向けている。この日がどれほど楽しい1日であったか、A君と母親が語ってくれたのを覚えている。「春になったらまた行きたい」の後の言葉は「でも無理だよね……」。

 食欲低下や全身倦怠(けんたい)感、吐き気や痛みなどの苦痛症状に加え、不安や恐怖を紛らわすことのできない病室での生活は、A君にも家族にも辛いことだらけだったに違いない。

 A君の願いをかなえるため、私たちは「お花見」を行うことにした。開花の数週前から、A君と家族がどうありたいと考えているかを第一に、医師を交えて計画を立てた。A君の希望を聞き取り、両親とはリスクを含めて話し合いをした。「お花見」は、A君と家族、医療スタッフの共通目標となった。

 父親の車で出かける計画は呼吸状態悪化で困難となり、最終的に病院敷地内での花見に変わった。酸素ボンベを携えた寝台での移動だが、A君はテルテル坊主を作ってその日を心待ちにした。医師は症状緩和のための投薬時間を調整し、看護師はA君や家族と細ごまとした準備を整えた。

 待ち焦がれた当日は晴天。医師と看護師も私服に着替えて参加した。母親手作りの好物を珍しく頬張り、ビーチボールを放って遊んだ。桜の下で家族やスタッフと何枚も写真を撮った。

 子どもの終末期における看護の基本は、心身の苦痛を緩和するとともに、最期まで子どもらしく、家族らしくいられるように支えることだ。しかし実際には、病状予測の難しさや成長発達への支援、親の混乱や不安などにより、対応は極めて難しい。成人を対象とするものに比べて研究成果も乏しく、専門的な人材育成にも課題がある。しかしそんな中でも徐々にではあるが、「小児緩和ケア」の体制づくりが進められている。

 あの日から程なく、A君は旅立った。両親から送られてきた写真には、青空に映える桜の下でピースサインを出す笑顔のA君が写っていた。

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