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企画特集 1【ともに生きる やまゆり園事件から】

息子よ そのままでいい

写真: 拡大

写真:神戸金史さん=東京都港区赤坂5丁目のTBS 拡大神戸金史さん=東京都港区赤坂5丁目のTBS

■どんな人でも人生の最後は動けなくなる

 RKB毎日放送の東京報道部長、神戸金史さん(49)は、7月29日午前2時ごろに帰宅すると、パソコンに向かった。長男(17)が小さかったころに見た夢から始まる文章を一気に書き、フェイスブックに投稿した。

 3歳で自閉症と診断された息子が、もし障害を持っていなかったら。そんな夢想で始まり、老いや事故で誰もが次第に障害を負いながら生きていくことに気づき、「息子よ。そのままで、いい」「あなたが生まれてきてくれてよかった」と続く文章。2千を超えてシェアされ、「いいね!」は1万に迫った。

 「障害者なんていなくなればいい」。植松聖容疑者(26)がそう話していると知り、神戸さんは心の内側をやすりで削られたような気がした。

 「障害のある子どもは、手がかかる分、かわいい。成長しても親の付き添いが必要だし、親は体力が続く限り、世話をしたいと思っている。深い愛情が伴っているんです」

 自身もかつては、よくわかっていなかった。長男が初めて迎えた誕生日に、妻(49)が知的障害に関する本を買ってきた。「そんなの、必要ないだろう」。そう言ってしまった。

 心の障害は見た目ではよくわからない。不在がちの父親は、母親より気付くのが遅かった。

 長男が4歳のころ、妻の一言で目が覚めた。「2年ぐらい前『育てるのは無理。一緒に死のう』という考えが頭をよぎった」

 神戸さんは、自閉症をテーマに仕事を積み重ねてきた。毎日新聞の記者時代、ある閣僚が自閉症と引きこもりを混同して謝罪した際に、「自閉症は先天性の障害」というコラムを書いた。3カ月後に、自閉症児とその家族を取材した「うちの子」という連載をすると、投書は400通以上に達した。RKBでは長男を撮影した番組を制作し、JNN系列の年間最高賞に選ばれた。

 神戸さんは今回、県警が被害者の氏名を公表しなかった点を非常に問題視している。「県警は無意識のうちに、『障害者は特別である』というメッセージを発信してしまった。結果的には植松容疑者と同じ心理だ」

 神戸さんは、障害者と健常者は、なだらかにつながっていると考えている。事故にしろ、病気にしろ、どんな人でも人生の最後は動けなくなるからだ。

 「植松容疑者に、好きな人はいなかったのだろうか。愛する人が突然の事故や病気で生きるか死ぬかの状態になった時、『障害者になったのだから死んでほしい』と思うのだろうか。『命だけでも助かってほしい』と思わないのだろうか。さらに、自分がそうなった場合どうなのか。もっと、想像力を働かせてほしかった」

■神戸 金史さん(49) RKB毎日放送・東京報道部長

 かんべ・かねぶみ 群馬県下仁田町出身。1991年、毎日新聞に入社。長崎支局などを経て、99年から2001年までRKB毎日放送(本社・福岡市)に出向。05年に毎日新聞を退社し、RKBに移った。

■神戸さんのフェイスブックへの投稿

私は、思うのです。

長男が、もし障害をもっていなければ。

あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。

私は、考えてしまうのです。

長男が、もし障害をもっていなければ。

私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。

何度も夢を見ました。

「お父さん、朝だよ、起きてよ」

長男が私を揺り起こしに来るのです。

「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」

夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、いつもの通りの朝なのです。言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。またこんな夢を見てしまった。ああ。ごめんね。

幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。想像すると、私は朝食が喉を通らなくなります。

そんな朝を何度も過ごして、突然気が付いたのです。弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、人をいじめる人にはならないだろう。

生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。お前の人格は、この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。お前は優しい、いい男に育つだろう。

それから、私ははたと気付いたのです。あなたが生まれたことで、私たち夫婦は悩み考え、それまでとは違う人生を生きてきた。

親である私たちでさえ、あなたが生まれなかったら、今の私たちではないのだね。

ああ、息子よ。

誰もが、健常で生きることはできない。

誰かが、障害を持って生きていかなければならない。

なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

私の周りにだって、生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。

交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、雷に遭って、寝たきりになった中学生が、おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、実は私の周りには、いたはずだ。

私は、運よく生きてきただけだった。それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。

息子よ。君は、弟の代わりに、同級生の代わりに、私の代わりに、障害を持って生まれてきた。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。事故で、唐突に人生を終わる人もいる。人生の最後は誰も動けなくなる。

誰もが、次第に障害を負いながら生きていくのだね。

息子よ。

あなたが指し示していたのは、私自身のことだった。

息子よ。

そのままで、いい。

それで、うちの子。

それが、うちの子。

あなたが生まれてきてくれてよかった。

私はそう思っている。父より

(村山恵二)

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