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企画特集 3【神奈川の記憶】

(45)国鉄鶴見事故から53年

写真:住民らが供養塔に花を捧げた。その先を電車がしきりに行き交っていた=横浜市鶴見区 拡大住民らが供養塔に花を捧げた。その先を電車がしきりに行き交っていた=横浜市鶴見区

写真:衝突から一夜明けた鶴見事故の現場。中央左右に横たわるのが上り電車。現在は貨物線は地下化されている=朝日新聞社ヘリコプターから 拡大衝突から一夜明けた鶴見事故の現場。中央左右に横たわるのが上り電車。現在は貨物線は地下化されている=朝日新聞社ヘリコプターから

■地元自治会が初の慰霊祭/「命の大切さ 子や孫に伝える」

 案内なしにはたどりつけそうもない民家の軒先に石の五輪塔が立っている。横浜市鶴見区岸谷の線路脇。1963年に発生し161人が死亡、120人が負傷した国鉄鶴見事故で遺族会が現場に建てた供養塔だ。

 事故から53年に当たる9日の午前、その前に20人ほどが集まった。黙祷(もく・とう)し献花。冥福を祈った。地元の岸谷第4自治会による慰霊祭で初の試みだという。

 自治会長の持丸留久さん(69)が動機を語る。

 「国鉄の戦後五大事故に数えられ、亡くなった人は船の事故を除けば最も多いのですが、自治会の役員でも知らない人がいる。時間が経ち遺族も高齢化。悲劇を地元で後世に伝えなくてはと考えました」

 事故を忘れたというよりは地元意識が生まれにくかったと持丸さんは考える。

 京急線の生麦駅の山側が岸谷で、法政女子高の一帯が自治会のエリアで約500戸。当時からの家は50戸はあっても、100戸はないだろうという。社宅が多かったという。

 現場はJRなら鶴見―新子安の間だが、京急線では鶴見は2駅先だ。「これが〈生麦事故〉と呼ばれていたなら、新たに移り住んだ人の意識も違っていたでしょうね」とも。

 どんな事故だったのか。真生田一昭さん(74)が教えてくれた。

 ――家族でテレビの人気番組「ルーシー・ショー」を見ていたら、ガタガタガタドーンという音がした。外を見ると、貨物列車が脱線、上り旅客線にはみ出していた。下り旅客電車は事故に気づいたらしく停車。ところが上りの旅客電車が走ってきて、脱線した貨車に衝突し、止まっている客車に乗り上げた。火花が雷のように明るかった――

 真生田さんは飛び出し、けが人を運んだ。「明るくなって気づくと、着ているものが血だらけだった」

 事故調査にも協力した。真生田さんの両親は東京のテレビ局に出かけて「ルーシー・ショー」を見た。発生時刻特定のためで、「音がした場面で手を上げて」と求められた。発生は午後9時51分ごろとされた。

 貨物列車が脱線したのはなぜかが焦点になった。難航したが、最終的には、いくつかの要因が複雑に重なった「競合脱線」と判断された。北海道で大規模な実験を繰り返すなど国鉄はその発生のメカニズム解明に力を注いだ。

 91年の朝日新聞に鉄道技術者の解説が載っている。「貨車の性能や線路は当時と比べて格段に良くなり、競合脱線はまったくみられなくなった」とある。

 だが2000年に東京の地下鉄日比谷線で5人が死亡、64人がけがをする事故が発生。競合脱線が原因だった。完全にゼロにするのは難しいようだ。

 JR東日本横浜支社は、鶴見事故を風化させてはいけないと受け継いでいるという。50周年だった3年前に事故のジオラマを作り、支社内で展示。線路脇の慰霊碑は支社員が交代で掃除している。9日午前には支社長ら幹部がそろって総持寺の慰霊碑に参拝。「安全が最大の使命です」と安全企画室の阿部智弘副課長。

 この事故では哲学者三枝博音が犠牲になった。戦後間もなく鎌倉アカデミアの校長をつとめ、事故時は横浜市大学長だった。三枝の没後50年の記念誌を市大が13年に刊行。そこでは「高度成長期の日本社会の歪(ゆが)みによってもたらされた不幸な事故」と位置づける。東京五輪を翌年に控え、新幹線の建設に力が注がれ、在来線の整備計画はなかなか進展しなかった――と指摘する。半世紀余を経てまた東京に五輪が巡ってくる。ここにも忘れてはいけない教訓があるのだろう。

 自治会では慰霊祭をめぐり議論があった。「幕を張ったら」「テントぐらい用意しよう」などの声もあったが、簡素に徹し15分で終了した。「続けることが大切。そのために負担は少なくしよう」との判断だという。「命の大切さや尊厳を子や孫に伝えなくては。殺伐とした事件が相次いでいますからね」と持丸さんは語った。

(渡辺延志)

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