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企画特集 3【神奈川の記憶】

(114)金属活字と明治の横浜

■時代が求めた大量印刷

 ◆活版普及、日本語の近代化促す

 横浜開港資料館(横浜・日本大通り)で7月16日まで開催中の企画展「金属活字と明治の横浜」は、金属活字を用いた活版印刷の歩みを紹介するものだ。技術導入や普及の歴史にとどまらず、明治維新が日本語の歴史においても画期だったことを伝えている。

 活版印刷を用いた日本語の新聞が横浜で始まったことは知っていた。明治3年12月刊行の横浜毎日新聞である。新暦では1871年1月に当たる。

 だが、その活字や印刷技術がどこからもたらされたかとなると、深く考えたこともなかった。

 展示の目玉だという1枚の写真は、その黎明(れいめい)期の印刷史を物語る。

 「2列目の西洋人がウィリアム・ギャンブルです」と展示を担当した石崎康子さんが説明してくれた。

 ギャンブル(1830〜1886)は米国人の印刷技術者で69年11月から長崎に4カ月間滞在し、活版印刷と活字鋳造の技術を伝授したとされる。

 「前列で刀を立てているのが本木昌造のようです」と石崎さん。〈日本における活版印刷の創始者〉とされる本木は長崎奉行所のオランダ語の通訳だった。西洋の科学技術を学び、中でも印刷技術を研究し、長崎製鉄所に活版印刷局を開設した。そこに招いたのがギャンブルだった。

 写真は米国議会図書館で石崎さんが見つけたもので初公開。写っているのは本木とその部下たちらしい。

 日本語の新聞は、神奈川県知事の井関盛艮(もりとめ)が発行を提唱し横浜活版社を設立。そこに本木の部下の陽其二(ようそのじ)が招かれ横浜毎日新聞が創刊されていた。

     ◇

 アルファベットに比べると漢字は文字数がはるかに多い。漢字を金属活字にする技術は、東洋への関心の高まりの中、欧州で発展した。19世紀になるとキリスト教の団体が、布教のために中国に施設を設け聖書を印刷。ギャンブルも北米長老教会が中国に設けた印刷所の所長だった。

 技術は伝わっても活版印刷はなかなか普及しなかった。日本語の活字をそろえるのは大変だったようで、横浜毎日新聞では初期には木の活字が使われていた。

 それに加え、1文字ずつ区切られた活字が当時の人の目になじまなかったという要素もあったようだ。

 江戸時代の研究者に聞いてみた。

 「江戸時代は公文書でも続け書きの草書が使われました。活字のように1文字ずつ文字を追いかけて読むのではなく、かたまりとして意味をとらえます。慣れれば読みやすいのですよ」と東海大の馬場弘臣教授。

 「御家流の草書が武士の正式な文字とされていましたが、書くのも簡単で疲れません。楷書は外交文書のほかは仏教のお坊さんなど限られたインテリしか使いませんでした。面倒なのです」と横浜市歴史博物館の井上攻・副館長。

 行政の文書も大量印刷がいらない仕組みだった。通知の類は村々を巡回させ、村の代表がそれを書き写して手元に残したという。

 日本における印刷の歴史を振り返ると、金属活字が使われたのは明治維新期が初めてではない。16世紀の末に、遣欧使節団が印刷機械を持ち帰り聖人伝などを印刷している。相前後して朝鮮に攻め込んだ秀吉軍が戦利品として金属活字を持ち帰っている。

 しかしそれは定着しなかった。江戸時代に普及したのは木版だった。続け書きの草書を上手に表現できた。絵を添えた物語の本が人気を呼んだが、金属活字では表現できない世界だった。だが、木版には限界があった。同じ版木で刷れるのは、繊細な線が必要な浮世絵では500枚、本なら1千部とされていた。

     ◇

 明治になり大量印刷が必要となった。活版印刷を使うために明治10年前後には毛筆手書きの続き文字を活字にする試みが始まった。ここでも考案したのはキリスト教の宣教師で、目的は聖書の印刷だった。

 展示をたどると、日本語が徐々に規格化されたプロセスが見えてくる。小学校で教える平仮名が統一されたのが1900(明治33)年。今日では〈変体仮名〉と呼ばれるが、仮名には多様なバリエーションがあった。大量、迅速、確実に伝達できる書き言葉の近代化ともいえそうだ。

 展示品の多くは横浜市在住の活字デザイナー小宮山博史さんのコレクション。明朝体活字のデザインを多く手がけ、その歴史を知りたいと集め始めた。

 活字離れが指摘されているが、パソコンやスマートフォンで使うデジタルフォントも活字の一種。日本におけるその第一歩が展示からは見えてくる。

 (渡辺延志)

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