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今週のこの人【この人】

松本勉さん

  ――水俣病患者と家族からの聞き書き集「水銀(みずがね)」を3冊自費で出版されました。書いた理由は?

  患者やその家族の暮らしを記録したかった。水俣病によって、人々がいかに恐怖におののき、苦しみ、悲しんできたか。それをやはり地元の人間が書き残さないといけないと思った。

  ――どんな人を取り上げたのですか。

  水俣病互助会長だった田上義春さんの母、千々岩ツヤさん。温かいウイットに富んだ人で、話がおもしろかった。水俣病が公式確認されたときの患者に含まれていた姉妹の母、田中アサヲさんや胎児性患者坂本しのぶさんの母、フジエさんたち。

  ――患者や家族の苦しみや悲しみ、怒りが伝わってきます。本音が聞けた理由は? 

  チッソの「城下町」だった水俣市では、患者とその家族は孤立無援だった。それで市議の日吉フミコさんたちと「水俣病対策市民会議」を68年に結成し、翌年提訴した水俣病第1次訴訟などを支援した。

  患者さんの暮らしの世話のほか、熊本地裁まで患者さんたちを連れていったり、弁護団と打ち合わせをしたり。包み隠さず話してくれたのは、一緒に闘った仲間だったからだろう。

  患者さんたちも水俣病になったことや、裁判やチッソとの交渉でどれだけ苦労したか、胸の中にたまっていた思いを聞いてほしかったのだと思う。

  ――タイトルを「水銀(みずがね)」とした理由は?

  ツヤさんに話を聞いたとき、「水銀ちゅうのは水銀(みずがね)んごたっとちで、百間、コキ島あたりに溜(た)まっていっしょおっとやもん(溜まって動かない)」と言ったのが、強く印象に残った。本にするときはこれをタイトルにと思い続けていた。

  ――方言の表記にどんな工夫をしましたか。

  例えば、ツヤさんが最初の結婚をしたときの話。「姉さんは兄に、私(おら)、弟に嫁入ってな。私(おる)が婿どんになる弟は、私(おる)が子ば一人産(も)って……」。ルビで音を、漢字で意味を伝えるようにした。簡単に聞きとれて、意味もわかるのは地元の者ならでは強み。

 ――昨年10月の関西訴訟の最高裁判決や、それを受けた環境省の救済策をどう見ますか。

  判決は緩やかな水俣病の認定基準を示したのにもかかわらず、環境省は77年の認定基準を堅持すると言う。おかしな話だ。新たに裁判をおこさないと国は動かないだろう。

  ――来年は水俣病が公式確認されて50年になります。感じるところは?

  半世紀たってもまだ解決しないのか、という思い。水俣病は終わっていない、二度と繰り返さないと誓う機会にしないといけない。

  ――戦争や原爆、水俣病など体験者の高齢化が進んでいます。語り継ぐためには何が必要ですか。

  体験者が亡くなる前に、本でも写真でもビデオでもいいから、記録を残すこと。そして若い人たちに関心を持ってもらうこと。幸い熊本学園大学には「水俣学」の講義があり、水俣病を知ってもらういい機会だ。

  ――「水銀」は、あと何冊出しますか。

  すべて自費出版なので、蓄えが無くなってきたから、あと2冊ぐらい。秋までに次を書き上げたい。

  取材のために訪れた、一人暮らしの松本さん宅には、書斎ばかりか居間にも、本や資料が所狭しと置かれていた。

  その中に、松本さんの宝物がある。「水銀」の基になった、水俣病患者やその家族に聞き取りをしたときの録音テープ。2時間テープで140本ある。

  72年ぐらいから約10年間をかけて約60人に話を聞いた。その大半がすでに亡くなっているという。「あのころに聞いておいて本当によかった」という言葉に実感がこもる。

  緑内障のために左目はほとんど見えず、糖尿病の影響で右目の視力も0・4。原稿はワープロで打つ。眼鏡だけでは画面の細かい字は見づらいので、虫眼鏡で文字を追いながら校正する。「水俣病のような理不尽なことが許されるのか」という怒りが原動力だ。

  一方で、聞き書き集については「半分は道楽だから」とも。長く続けられる理由はここにあるのかもしれない。
(宮田富士男)

  まつもと・つとむ 31年、水俣市生まれ。52年に水俣市役所に就職。市職員労働組合書記長、水俣地区労働組合協議会事務局長などを歴任。68年に「水俣病対策市民会議」を結成し、中心メンバーとして活躍。水俣病第1次訴訟などで患者支援に尽力した。

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