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四季つれづれ

能楽師・有松遼一さん(1)

写真:有松遼一さん 拡大有松遼一さん

■純粋で無駄のない「型」追究

 初対面の人と職業の話になって、「ノウガクシです」と答えると、たいていは聞き返されるか、脳外科か、農学の何かと思われてしまう。着物を着ていなければなおさらだ。たしかに世間で能楽師と出くわすことなどないかもしれない。最近はニコニコして相手の反応を楽しんでいる。

 代々のおうちなのですか、というのもよく聞かれる。京都は能楽の古いお家も多いが、私は東京の、ごく普通のサラリーマン家庭から、24歳の時にこの世界に飛びこんだ。

 恥ずかしながら、大学に入るまで能を見たことがなかった。新学期の春、クラスメートに袖を引っぱられて訪ねたのが、能楽サークルだった。最初の見学だけ付き合うつもりが、先輩たちに囲まれて茶菓子を出され、仕舞や謡をたっぷり披露され、おまけに夕食までごちそうになると、うぶな1回生はいつしか部室の末席を汚すようになった。

 そんな門外漢が、卒業後に玄人としてこの道を志すことになるのだから、人生はどうなるかわからない。

 能は室町時代から連綿と続く芸能である。能の表現は「型」の集合でできている。型は長年をかけて先人たちが磨き上げてきた規範である。無駄なものを徹底的にそぎ落とし、必要最小限かつ勁(つよ)い表現によって、観客の想像をかえって豊かにさせてしまう。純粋で、作為を排する能の志向。ストイックでとてもかっこいい。一生をかけて追究したいものに出会えた。

 昔から日本の伝統文化には関心が高かった。子どもの時、父と祖母とで伊豆へ温泉旅行へ出かけた。仲居さんが三手で美しくふすまを開ける所作を見て、いたく感動した。あのような典雅な「型」をもっと知りたい。それから学校の図書室で小笠原流礼法の本を読みふけるようになった。その本の貸し出しカードには私の名前ばかりが並んだ。

 友人に本や映画を「これ、面白いよ」と薦められたら見るように、能は先人たちのオススメが650年以上続いてきた芸能なのである。私が能と出会うのも、時間の問題だったのかもしれない。

     *

 ありまつ・りょういち 1982年、東京都生まれ。能楽師ワキ方高安流。2007年、ワキ方の谷田宗二朗に入門し、初舞台。主に関西の舞台に出演。新作能「高虎」「新〈淇〉劇」の執筆のほか、「沖宮」の制作などを手がける。京都大大学院博士課程(国文学)研究指導認定退学。同志社女子大学嘱託講師。冷泉家時雨亭文庫調査員。

(2020年6月4日掲載)

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