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平成じげもん2【青来有一さん】

理想と現実、大きな乖離

写真: 拡大

写真:2001年の芥川賞・直木賞の贈呈式で。右から2人目が青来有一さん 拡大2001年の芥川賞・直木賞の贈呈式で。右から2人目が青来有一さん

【芥川賞作家・青来有一さん 60歳〈前編〉】

■核廃絶・原発事故 昭和の問題終わってない

 平成7(1995)年3月20日、出版社から一本の電話があった。応募した作品が文学界新人賞の最終候補に残ったという。日付まではっきりと覚えているのは、地下鉄サリン事件が起きた日だからだ。オウム真理教による未曽有のテロ事件で、13人が死亡、6千人以上が重軽傷を負った。

 《1月に阪神・淡路大震災が起きて連日ニュースをにぎわせていたのが、3月を境に変わっていった。震災の話題が、その下に消えていくような感じで。平成のイメージって、自分自身の中ではそれが大きい。》

 昨年、教団が起こした事件の裁判が終結。元幹部13人に死刑が執行された。

 《平成ってほとんどかなりの部分、オウムを抱え込んでいたなあと思います。》

 平成13(2001)年に芥川賞を受賞した「聖水」は、新興宗教が一つのテーマになっている。

 《若い人が精神世界にひかれていく時代の状況があり、その流れの果てにオウムが出てきた。ただ、元々全ての宗教は新興宗教。どれが本物でどれが危ういか、なかなか理解できない。まがいものと本物の区別がつかないような状況の中で、人間は世界を築き上げていくところがある。「聖水」の時は明らかにそのイメージを持っている。

 信じるか、疑うか。世界の本質はそこじゃないか。北朝鮮と米国の関係も、結局は信頼関係をどう構築するかという議論に尽きる。》

 作家として、その視線を国内外に向けてきた。

 《どうやって他者を信じるか。私の初期の作品のテーマってほとんどそこです。最終的には、核抑止論も含めて全てその射程で捉えられると思います。

 人間関係の場合、信じるかどうかというのは、根拠のない暗闇に向かって飛んでいくようなところがある。国際社会も、日々の暮らしも。

 世界中の対立を見ていても、みんな宗教を扱いかねている。人権なんて確立されたのは、いまだにごく一部の地域。先鋭的な主張が出てくる一方、フランス革命以降の自由、平等、博愛の概念は何となく揺れています。結局、人間の心ってなかなか成長しないんだなあと思いながら、平成の小説を書いてきました。》

 原爆資料館の館長という「顔」も持つ。長崎からは時代をどう見てきたのか。

 《爆心地付近で暮らしていると、昭和をぬぐい去れないというか、脱ぎ捨てられないところがあると感じる。昭和の戦争をどう考えるかというのを、ずーっと引きずっている。

 被爆地の時間の数え方は「被爆から○年」。平成の枠組みでは捉えきれず、昭和の次という風に、あっさり変わらなかった部分はある。

 その意識で世界を定点観測してきた。長崎という土地は、世界につながる要素が色々ある。ほかの地域にいるより思い深く、世界の出来事を見てきたところがある。》

 様々な希望が、湧き上がっては消えた。

 《平成になる当時は、東西の冷戦が終わって、「さあ、これから世界も平和に向かっていくぞ」というイメージがあった。でも国内も海外もそう簡単にはいかず、むしろ東欧などは大きな混乱に入っていった。

 米国のオバマ大統領が出てきた時は、はつらつとした、清新なイメージがあった。特に「核なき世界」を掲げた09年のプラハ演説には、被爆者を中心に泡立つような期待感があったが、それも夢としてついえ去った。核廃絶がいかに難しいか、現実と理想の大きな乖離(かいり)を見せられた気がする。》

 平成23(11)年に東京電力福島第一原発事故が起きた時は、四半世紀前のチェルノブイリ原発事故を思い起こした。

 《やっぱり昭和は終わっていない。核の問題が消えておらず、また突然出てくるんだなと。そんな思いで見ていました。》

 (聞き手・森本類)

 =つづく

 せいらい・ゆういち 1958年、長崎市生まれ。本名は中村明俊。市役所に勤めながら作家活動を続ける。95年に「ジェロニモの十字架」で文学界新人賞、2001年に「聖水」で芥川賞、07年に「爆心」で谷崎潤一郎賞を受賞。10年から長崎原爆資料館長。

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