メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

04月01日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加

ナガサキノート・35【「のこす」の現場】

声を集め続けて半世紀

写真:証言の聞き取りをする森口貢さん(右)=7月5日、長崎市筑後町 拡大証言の聞き取りをする森口貢さん(右)=7月5日、長崎市筑後町

写真:鎌田定夫さん 拡大鎌田定夫さん

写真:「証言」(旧「長崎の証言」)創刊号(左)と昨年刊行された最新号 拡大「証言」(旧「長崎の証言」)創刊号(左)と昨年刊行された最新号

《「のこす」の現場(1) 証言》

 きょうは、どんな話が聞けるだろう――。

 ノートを取り出し、ボイスレコーダーの電源を入れる。「家はどちらかなと思って」。長崎に原爆が落とされる前の復元地図を広げ、当時の記憶をたどっていく。

 被爆証言集の刊行を続ける「長崎の証言の会」事務局長、森口貢(もりぐちみつぎ)さん(82)は7月上旬、爆心地から1キロほどの三菱兵器大橋工場で被爆した安日涼子(やすひりょうこ)さん(88)の聞き取りをした。会に寄せた手記を元に詳しく聞きだしていく。

 「母は38歳でした」。原爆投下前夜、疎開先から長崎市浜口町の自宅に戻って被爆死したという安日さんの母親に話題が及んだ。森口さんは表情を曇らせ、声を詰まらせながら相づちを打った。

 終戦後まもなく、疎開先の佐賀県から長崎市に戻った森口さんは聞き取りをしながら当時の光景を思い出す。列車の窓から見た荒野。むしろを垂らした防空壕(ごう)で暮らす家族。死者を荼毘(だび)に付した跡に残った、校庭の木くずやトタン板……。相手と思い出話をして一緒に懐かしみ、悲しむ。「証言を取るのが目的だけど、思い出話を通して心に迫れる気がするんです」

     □     ■

 会は半世紀にわたり被爆者の証言を書き留めてきた。年1〜4回発行する証言集は昨年で75冊に。体験を聞き取った人は1千人超。現在は森口さんら被爆者世代を中心に十数人が編集に携わる。9日でちょうど創刊50年を迎える。

 きっかけは厚生省(現・厚生労働省)の1967年の調査報告だ。「健康・生活の両面において、国民一般と被爆者の間には著しい格差はない」。この発表に反発し、のちの長崎総合科学大教授、鎌田定夫(かまたさだお)さん(2002年に72歳で死去)らが被爆者への健康調査を手弁当で進めた。続いて始めたのが証言の記録活動だ。「被爆体験を通して反戦、反核を訴えるのが最大の狙い」と森口さんは創刊の趣旨を語る。

 現編集長の山口響(やまぐちひびき)さん(43)は同会の特徴を「外に対して開かれた性格を持つ」と説明する。職場や学校といった単位で被爆体験をまとめた書物は少なくない。これに対し同会の証言集は、一般の市民なら誰でも、原爆に遭った体験を寄稿や語りで残すことができる。

 原子力船「むつ」の佐世保入港、東京電力福島第一原発事故、核兵器禁止条約の成立――。核を巡るその時々の動きを被爆地の視点から特集し、記録する役割も果たしてきた。

     ■     □

 森口さんは教員を退職して20年以上、証言の記録を続けてきた。「子や孫に同じ経験をさせたくない。だから、もっと伝えていかないと、と本気で思っています」と語る。

 聞き取る側も、聞き取られる側も高齢化が進む。当時の記憶が鮮明な世代は次々と鬼籍に入り、病気や時間の経過で記憶がおぼろげになっている人もいる。今年6月には、聞き取りしようとしていた被爆者が体調不良になり、立ち消えになった。「また来ますね」と再訪の約束をしたまま、亡くなった人もいる。「もうちょっと早く行っておけば……。悔しいですよね」

 体力がある限り聞き取りを続けようと自らを奮い立たせる一方、「いまの形を、いつまで続けられるのか」と自問もする。会の新たなあり方を模索しなければならないと思っている。(田中瞳子・26歳、米田悠一郎・23歳、森本類・33歳)

     ◇          

 戦後74年。被爆者の高齢化が進む中、その体験を後世につなごうと奮闘する人たちがいる。さまざまな「のこす」営みの現場を訪ねた。

■「長崎の証言の会」半世紀の歩み

(年)

1969 8月9日、鎌田定夫さんを中心に「長崎の証言」創刊

1978 年4回の発行に。原子力船「むつ」佐世保入港の特集も

1982 「ヒロシマ・ナガサキの証言」とタイトル変更

1986 修学旅行生らを被爆遺構に案内する活動を始める

1987 年刊に戻し、タイトルは「証言ヒロシマ・ナガサキの声」に

2009 代表委員の広瀬方人さんを中心に、英語版の初版を発行

2014 山口響さんが戦後生まれで初の編集長に

     タイトルが現在の「証言ナガサキ・ヒロシマの声」に

2019 創刊50年。地道な平和活動をたたえる「秋月平和賞」を受賞

通算3871回目。今シリーズは5回の予定。

PR情報

ここから広告です

PR注目情報

長崎総局から

「長崎アサヒ・コム」へようこそ。平和・核兵器廃絶への願い、異国情緒豊かな街の話題や写真など長崎県ならではのニュース、連載企画をお届けします。また、各種情報などもご参照ください。

朝日新聞 長崎総局 公式ツイッター

関連サイト

別ウインドウで開きます

注目コンテンツ

  • 写真

    【&w】カカドゥの不思議な野鳥たち

    ノーザンテリトリー〈PR〉

  • 写真

    【&TRAVEL】遊び心満載の豪華客船

    船上でサーフィン?〈PR〉

  • 写真

    【&M】TEPPEI×ハマ・オカモト

    自分に合った服装とは?

  • 写真

    【&w】劇場鑑賞券を3組6名様に

    「&w」読者プレゼント

  • 写真

    好書好日旅するように異国料理を作る

    宮崎あおいさん初の料理本

  • 写真

    WEBRONZAカーシェア急拡大

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジンこれぞ手軽な手土産の大本命

    手土産に縁起のよい「虎家喜」

  • 写真

    T JAPAN未来を変えるコスメ 第2回

    全米で話題の「CBDオイル」

  • 写真

    GLOBE+注目は年齢差だけではない

    マクロン大統領夫人の実像

  • 写真

    sippo絶滅の危機に瀕するトラ

    生態は猫とほぼ同じ

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ