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ナガサキノート・35【「のこす」の現場】

聞く重圧 記憶継ぐ決意

写真:手記の執筆補助のための聞き取りに臨んだ横尾翔子さん(右)=いずれも長崎市平野町 拡大手記の執筆補助のための聞き取りに臨んだ横尾翔子さん(右)=いずれも長崎市平野町

写真:体験を語り涙ぐむ西川サワノさん 拡大体験を語り涙ぐむ西川サワノさん

写真:祈念館に保管されている体験記 拡大祈念館に保管されている体験記

《「のこす」の現場(2) 手記》

 国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館=キーワード=(長崎市)が手がける「執筆補助」。自ら手記の筆を執ることが難しい高齢の被爆者から、職員が証言を聞き取って手記に仕立てる。横尾翔子(よこおしょうこ)さん(37)は担当になったばかりだ。

 祈念館は、国が集めたものを中心に約6万5千人分の被爆体験記(手記)を保管する。うち328点は、祈念館が独自に集めた。執筆補助はその収集作業の一環だ。

 祈念館は4月、被爆者健康手帳を持つ長崎市内の約2万7千人に、手記の提供を手紙で呼びかけた。手紙の中で、希望する人には職員による執筆補助があることも紹介した。反響は予想を超えた。昨年度末までの15年間で執筆補助の申し込みは19件だったが、4カ月でその4倍の77人からの依頼が届いた。

 執筆補助の聞き取りは主にメインとサブの2職員が行う。横尾さんはサブとして6回の聞き取りを経験したが、相方だった先輩が7月末に退職。手紙を読んで応じてくれた依頼者の一人、西川(にしかわ)サワノさん(90)の聞き取りに、初めてメインの立場で臨むことになった。

     □     ■     

 本番を1週間後に控えた7月25日の退勤前、横尾さんは更衣室で上司に打ち明けた。

 「やっぱり不安です」

 長崎の大学に進むまで、鹿児島で過ごした。まだ分からない地名も多い。6月、執筆補助の依頼に来た西川さんの方言混じりの話が全部は理解できなかった。涙ながらに見せてくれた家族写真の誰が誰か聞き取れず、失礼と思い聞き返すこともできなかった。

 横尾さんは、夫が被爆2世だったことを、祈念館の運営を担う長崎平和推進協会に勤めるようになって知った。尋ねなければ、夫は話題にもしてくれなかったと思う。被爆の重い経験は、当事者の誰もが直視できるものではない。執筆補助はそれを聞き出していく作業だ。横尾さんはその重圧に押しつぶされそうだった。

 だから、徹底的に準備した。祈念館に残る手記から本人の記述を探し、当日の足取りを予想して当時の地図に書き込んだ。学校や住所が近い別の被爆者の手記にも目を通した。8月1日。横尾さんはサブ役の上司と、祈念館で西川さんを迎えた。西川さんは座ると、すぐに話し始めた。

 74年前――。西川さんは住み込みで働いていた長崎市中川町で被爆した。天気のいい日で、外で布団を干していたが、「あの瞬間」はよく覚えていない。翌朝、実家に戻ると、離れて暮らしていた伯父も帰ってきた。両手に鍋と鉄かぶと。妻と3人の子どもの遺骨が入っている、と言った。被爆から4年後、伯父は「こがん原爆は人間を殺すとね」と言って亡くなった――。

 約1時間の聞き取りを終え、横尾さんはどっと疲労を感じた。反省点が次々と思い浮かんだ。一方、西川さんからは「本当にありがとう。伯父が浮かばれます」と声をかけられた。その言葉に救われた気もした。被爆者自身、大切な人が生きていた記録を、自分がいなくなった後の世に残したいと思っている――。そう気づかされたからだ。手記呼びかけへの反響も、被爆者の願いの現れなのかもしれない、と思い至った。

     ■     □

 「核や戦争、平和を考える最初の材料となるのは被爆者の体験だ」という横尾さん。被爆者が減り続ける中、記憶を語ってもらい、書き残す仕事の重さを改めて感じている。

 聞き取りを終えてから手記が完成するまで長ければ3カ月。祈念館は、依頼のあった全77人分の聞き取りを今年度内に終えることを目標にする。受け止めきれるか。「不安が消えることはないと思う」と横尾さん。それでもできる限り応えたい。「語りたい人はまだまだいるはずだから」(横山輝・25歳)

◆キーワード

<国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館>

 原爆犠牲者を追悼し、被爆体験を継承するため2003年に開館。体験記は約6万5千人、遺影は約8千人分を保存している。原爆死没者名簿も保管しており、毎年、新たに判明した犠牲者の名前を書き加える。梅雨前には、名簿の湿気を除くため外気をあてる「風通し」が行われている。

通算3872回目。今シリーズは5回の予定。

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