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ナガサキノート・35【「のこす」の現場】

「証言」を世界に広める

写真:ピースボートでアジア各国から訪れた若者が森口貢さん(左)の講演に聴き入った=9日、長崎市文教町 拡大ピースボートでアジア各国から訪れた若者が森口貢さん(左)の講演に聴き入った=9日、長崎市文教町

写真:広瀬方人さん 拡大広瀬方人さん

写真:緒方智子さん 拡大緒方智子さん

《「のこす」の現場(5) 英語で》

 74回目の「長崎原爆の日」を迎えた9日。「長崎の証言の会」の事務局長、森口貢(もりぐちみつぎ)さん(82)は、ピースボートに乗って長崎を訪れた韓国や中国などアジアの若者たち23人に、2枚の写真を示した。被爆の2日前と2日後、米軍が空から撮った浦上の写真だ。

 「2枚を比べて何が違いますか」。女性の一人が答えた。「Anything damaged.Building.(何もない、建物も)」。森口さんはうなずいて続けた。「建物はなくなっても造り替えられます。しかし、そこにいた人が現れることは二度とありません」

 原爆で傷ついた人たちのカラー映像も流した。谷口稜曄(たにぐちすみてる)さん(2017年に88歳で死去)の背中のやけどが映ると、目を背けたり、顔をしかめたりする人もいた。大事なのは、一人ひとりの命があったことに想像力を巡らせること――。森口さんは約1時間の講演で強調した。

     □     ■

 この日、会が刊行する「証言」は創刊50年を迎えた。同時に、英語版の創刊10年の日でもあった。編集作業の中心にいたのは、会の代表委員を務めた広瀬方人(ひろせまさひと)さん(16年に85歳で死去)。「証言を広め、もっと多くの人に知ってもらいたい。そのためにどうすればいいかをいつも考えていました」と、英語版の初版から編集に携わる緒方智子(おがたともこ)さん(76)は振り返る。

 県内中心にボランティアを募り、約30人の被爆証言を英訳した。ALT(外国語指導助手)にも点検を依頼し、09年8月9日の初版発行にこぎ着けた。長年、中学で英語を教えてきた緒方さんにとっても、英訳は「次元が違う」難しさだった。「文法上正しいとか、意味が通じるだけではだめ。被爆者の気持ちをしっかり乗せないと読む人の心を打つものにならない」

 単語一つにも注意を払った。例えば「防空壕(ごう)」。shelter(シェルター)では地下にコンクリートで固めてつくった避難所のような印象を与える。cave(洞窟)では掘ってつくったニュアンスが伝わらない。編集メンバーで話し合い、air―raid shelter(空襲時に使うシェルター)で統一することにした。長崎の方言の微妙なニュアンスをどう表現するか、一日かけて話し合うことも珍しくなかった。

 広瀬さん自身、爆心地から約4・8キロの動員先で被爆し、両腕を負傷。外国の人に英語で伝えることもあったが、自身の体験は「ささいなこと」だとよく話していた。もっと厳しい体験をした人たちがたくさんいる。それをできるだけ本人の言葉で伝えたい――。そうした思いが強かったのだろうと、緒方さんは推し量る。

     ■     □

 現事務局長の森口さんは、海外にも赴いて被爆体験を伝えてきた。「ひどい兵器だった」と共感されながらも、「原爆のおかげで戦争が終わったことも知ってほしい」と反論されることが何度もあった。「日本でも、原爆で多くの人が助かった」と言われることもある。

 米国では原爆に否定的な若者が増えているという調査もある。森口さんはそこに希望を感じる。「核兵器がいかに非人道的かを、読んでくれた人が少しでも広めてくれたら」。英語版を手に取る外国の人たちを見て、思いをはせる。

 被爆体験を世界の人に知ってもらうにはどうすべきか。「証言」の現編集長、山口響(やまぐちひびき)さん(43)はこう考える。「自分たちの声を世界に届かせたいのであれば、世界の人々がどういう経験をし、どういう発想をしているのか、もっと勉強する必要がある。そうしないと、反核の訴えというのは力を持ち得ない」

 被爆というあまりにも大きな経験があるがゆえに、世界で起きる戦争や武力衝突に関心が低かった面はないか。原爆投下は、戦争の末に起きた。戦争そのものに視野を広げることが必要ではないだろうか。だからこそ「証言」では、原爆以外の問題も意識的に取り上げてきた。

 被爆者の平均年齢は82歳を超えている。やがて来る「被爆者のいない時代」に備え、次の世代に、世界の人々に、残せるものは何か。「のこす」者たちの模索が続く。(米田悠一郎・23歳、森本類・33歳)

◆キーワード

<「証言」英語版>

 もとになったのは2006年に長崎の証言の会が出版した「証言 長崎が消えた」。1969年の「証言」創刊号以降、約40人の被爆証言を選び出してつくられた。大やけどをした背中の写真を掲げて核廃絶を訴えた谷口稜曄さんや、「車いすの原爆語り部」として知られた渡辺千恵子さん(いずれも故人)の証言が載る。

 もともと年代順だった構成を内容別に再編集。「NAGASAKI Voices of the A−BOMB survivors」として09年8月9日に刊行された。長崎原爆資料館(長崎市)で販売中。欧米の観光客を中心に売れ行きは好調だという。

通算3875回目。このシリーズおわり。

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