朝日新聞デジタル：人ひと／学校より楽しい生き方考えて - 岡山

人ひと

人ひと／学校より楽しい生き方考えて

ＮＰＯ法人「ステップ」理事長の原昌広さん＝岡山市北区下石井２丁目

■不登校を支援するＮＰＯ理事長　原昌広さん（３２）

　雑居ビル２階の一室。無数の漫画や参考書、ゲームソフトが本棚に並んでいる。「元気？」。訪れた子どもたちに声をかけ、テンポよく会話に入っていく。「あはは」と笑う大きな声が、一瞬でその場を明るくする。

　ＮＰＯ法人「ステップ」（岡山市北区下石井２丁目）を２０１２年に立ち上げた。不登校の子どもや引きこもりの人たちを支援し、この３年余りで６８人と向き合い、６６人を復学や就職につなげた。いまは小学３年から１９歳の３５人が通う。

　日曜日を除く毎日午前１０時から午後８時、事務所を開ける。ゲームに勉強にと、子どもたちは思い思いの時間を過ごしていく。支援するスタッフ７人はミュージシャンや元エステティシャンらと多彩。音楽に、メイクも教わることもできる。

　家族の希望があれば、自宅に足を運ぶ。最初から悩みは聞かないことが多い。隣に座り、テレビゲームで一緒に遊ぶ。好きなアニメの話題をふったり、アイドルや歌手のＤＶＤを持っていったりして、子どもたちが構えずに話しやすくするきっかけをつくる。

　活動の原点は子どもの頃の不登校の経験だ。小学３年の時、５月ごろから学校を休みがちになり、夏には通えなくなった。両親のけんかが多く、クラス替えで仲良しの友達と離れて独りぼっちになった頃だった。相手に何を話し、話してはいけないのか分からなくなり、話すことがほとんどできなくなっていた。

　「親が『学校に行け』と言うんだろうな」。そんなことを考え、目が覚めた。学校は「すごく遠くにある異世界」。気持ちを周りにうまく表現できなかった。

　母親に「精神科に行こう」と言われた。「自分は病気なのか」とショックだった。嫌々行ったカウンセリングの居心地は最悪。心の病と判断されているのが情けなかった。再び通学できるようになったのは、６年生の秋だった。

　自分が心の病だと受け入れ、カウンセラーに会うのはつらい。だからこそ、不登校やひきこもりがちな子どもたちには、ゲームやアニメなどを入り口にする。「会ってもいい理由をつくるんです」

　子どもは支援されている実感がないほど、「自分の力で元気になった」という自信もつく。助言を求められた時も、できるだけ考えを引き出すようにする。

　もし、自分の子どもが不登校になったら、ストレスの逃げ場をつくってあげるのが最優先だという。「学校に行くことよりも、楽しく生きることを考えると、どうすればいいか見えてきますよ」

　目標は、培ったノウハウをより多くの人に伝え、悩んでいる子どもたちを支援できる人を増やすこと。県外に二つ目の事務所をつくる準備を進めている。（田部愛）

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　はら・まさひろ　１９８３年、倉敷市生まれ。九州大学教育学部を卒業し、人材派遣会社の営業職などを経験した。２０１２年に県教委のスクールカウンセラーに登録された。好きなアニメは「ワンパンマン」と「ドラゴンボール」。３歳の娘と一緒に、毎朝、人形のおうちでままごとをするのが楽しみ。

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