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TOPICS【TOPICS】

(逆風満帆)歌手新垣勉:中 オンリーワン

親を憎み人生を呪う

 沖縄、失明、混血、両親の離婚――新垣勉(あらがきつとむ)(52)はステージに立つたび、苦難に満ちた生い立ちを語る。

 会場の空気は重く沈む一方だと思いきや、時として大爆笑に包まれる。

 去年2月、日本武道館で開かれたアフガニスタンの医療活動を支援するチャリティーコンサートでもそうだった。

 両親を殺したいほど憎んだと語りつつ、「憎しみがなくなる食べ物を知っています」……「肉マン(憎まん)」。

 新垣に比べれば、恵まれた人生を送ってきたはずの大多数の観客にとって、たわいないダジャレは救いでもある。

 重さと軽さ、ネガとポジ。この両極端は、新垣の思春期にもそのままあてはまる。

 祖母が亡くなった後、盲学校の寮から休暇に帰る場所は、親類の家だけになった。

 他人との比較に敏感になる年頃、自分だけが親に捨てられ、盲目であるという現実に対し、悲しみだけではなく、怒りが膨らんでいった。両親を憎み、視力を奪った助産婦を憎んだ。「みんな殺して、自分も死のう」。人生そのものを呪っていた。

 対極の一面は、自分の能力を信じ、それを積極的に売り込むことだった。

 地元のラジオ局に「DJをやらせてくれ」と手紙を出したり、教師から「発音は私より上手」と褒められた英語力で、全日本高校英語弁論大会に出場したり。ラジオの公開番組には何度も出演し、弁論大会でも沖縄代表として九州大会まで行った。

 「人前で明るくすればするほど、内面とのギャップに悩んでいました。点字で読んだ太宰治の『人間失格』に感銘を受けたのもこの頃です」

 高等部に進んだ頃、近所の井戸に足をかけて飛び込もうとしたことがある。本気で死ぬつもりだったか、知人に見つけてもらうことを見越してのことだったか、今となってははっきりしない。

 この危険な状態を抜け出すきっかけを作ったのは、歌だった。賛美歌にひかれ、首里バプテスト教会に通うようになった。城間(しろま)祥介牧師(77)に、両親や助産婦への恨みをぶちまけると、ただ泣きながら話を聞いてくれた。

 現在は宮古バプテスト教会の名誉牧師を務める城間牧師はこう振り返る。

 「日曜礼拝に連れ出すため寮に迎えに行くと、他の生徒は家族と実家に帰り、彼ひとりが大部屋に残っていた。がりがりにやせていて、ベトナムの戦災孤児のようだった」

 まもなく、城間牧師が身元引受人となり、新垣は寮を出て教会で暮らし始めた。食事は城間家で取るようになり、家庭のぬくもりも味わった。賛美歌を覚え、聖書を勉強し、洗礼を受けた。

 夏休みには教会主催のキャンプに参加した。忘れられないのは、米国人宣教師からアコーディオンをもらったことだ。音色を気に入った新垣はただ「下さい」と言っただけ。するとすぐ「上げましょう」と返ってきた。

 ダメで元々、欲しいものは欲しいと言う。障害者だからと遠慮していたら、何も手に入れられない。祖母からは教えられなかった人生哲学だ。

○父から贈られた「声」

 盲学校の高等部には、鍼灸(しんきゅう)師になるための専攻科しかなかった。新垣も学んだ。生活していく手段が鍼灸師以外にほとんどない現実があった。

 だが、新垣が卒業後に選択したのは、牧師になる道だった。視覚障害者としては前例がなかったが、東京基督教短大で学んだ後、福岡市の西南学院大学神学部に編入した。

 神に仕えると決め、心は安らかになったのだろうか。

 「心では教えに背き、私はまだ両親と助産婦を憎んでいた。悩みはより深かったと言うべきかも知れません」

 もう一つ断ちがたかったのが、歌手になる夢だ。神学部4年の時、神戸在住のボイストレーナー、アンドレア・バランドーニのオーディションを受けた。

 「君の声は日本人離れしたラテン的な響きがある」と評価された。

 父がラテン系米国人であることを告げると、「神様からのプレゼント。お父さんに感謝しないとね」。

 混血であることに、劣等感を抱くことしかなかった新垣には、衝撃的な一言だった。父を許し、前向きに生きる最初の一歩を踏み出すきっかけになった。

 西南学院卒業後は沖縄に帰り、首里バプテスト教会で副牧師になった。5年後、「一つの組織にとどまることができないタイプ」と自覚し、再び沖縄を後にした。

 歌に対して募る思いに、今度はブレーキをかけるつもりはなかった。=敬称略

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