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(逆風満帆)歌手新垣勉:下 オンリーワン

病に倒れ「命どぅ宝」

 沖縄と反戦。7月に発売された新垣勉(あらがきつとむ)(52)の最新アルバムのテーマだ。「命(ぬち)どぅ宝〜沖縄の心 平和への祈り」というタイトルは、まるで米軍基地反対運動のスローガンのようでもある。

 「戦争がなければ、私は生まれてきませんでした。そんな私が生きているのは、平和のために何かしなさいということだと思っています」

 7月上旬、福岡県で開かれた講演会で、新垣はいつものように平和への思いを語った。そして、「島唄(しまうた)」で知られる宮沢和史書き下ろしの新曲「白百合の花が咲く頃」を歌う前に付け加えた。

 「一人でも多くの人に買っていただければ」

 苦難の歴史を背負いながら、命は宝と知り、平和を祈りながら生きる――「沖縄の心」という言葉で浮かぶイメージを、新垣が体現していることは間違いない。

 だが、現実の沖縄がステレオタイプな言葉だけでは語り尽くせぬように、新垣もまた、たくましいリアリストの一面を持っている。

 那覇市の首里バプテスト教会の副牧師を辞したあと、新垣は福岡市に拠点を移し、「草の根歌手」として、全国の教会で音楽伝道を始めた。

 「どこでも歌います」という宣伝を送る際には、点字の手紙を必ず同封した。点字郵便が無料になる制度を利用しない手はないと考えた。

 一人でつえをつきながら、北海道から沖縄まで歩き尽くした。荷物はいつも重かった。賛美歌を吹き込んだ自主制作のカセットテープを大量に持ち歩いていた。売り込むチャンスを逃したくなかった。

 お礼の形でもらったギャラは、一カ所につき2万〜3万円ほど。封筒が厚くて喜んだら、千円札が5枚ということもあった。宿代を節約するために、サウナに宿泊した。

 そんなある日、電話で歌う場を求めた時のことだった。「音大を出ているか」と聞かれた。「いいえ」と答えると、「うちは音大出がゴロゴロいるから」と切られた。

 「うらまないけど、根には持つタイプ」。新垣は笑いながらそう自己分析する。この時もそうだった。悔しさを胸に秘めて、絶対に音大へ行ってやろうと決意した。

 東京の武蔵野音楽大学に入学したのは87年、34歳になっていた。学費は友人からの援助や、沖縄の地元紙を通じて募った寄付で賄った。

 人々の善意で念願をかなえた後も、心の奥底で人生を恨む気持ちは消えていなかった。会った記憶もない父は、クラシック唱法に向いた西洋人の骨格をくれた。だが、近くにいても、抱きしめてもらったこともない母を許す理由は見つからなかった。

 2年生の終わりに、狭心症の発作で倒れた。病院のベッドで目覚め、自分が命拾いしたことを知った。

 「初めて生きていて良かったと思いました。私を産んでくれた母に感謝できるようになったのは、それからです」

 病気の原因の一つは、朝から肉を食べたり、甘いものを無制限に取ったりするような食生活にあった。退院後は、体にいいと言われることは何でも試すようになった。

 ●誰にも縛られない心

 音大では大学院修士課程まで進み、40歳で6年間の学生生活を終えた。全国を歌い歩く生活に戻った。

 冬になると、歌う仕事が途絶え、家賃さえ滞納する日々。再び救いの手が差し伸べられた。

 キリスト教の関係者が「新垣勉友の会」を結成、興行面で支えとなると同時に、民放テレビ局のディレクターに紹介してくれたのだ。

 98年11月、新垣を取材したドキュメンタリー番組が放映された。深夜枠だったが、反響は大きく、沖縄出身の盲目のテノール歌手の存在を多くの人々に印象づけた。

 評判は口コミで広がり、公演依頼が相次ぐようになった。01年、満を持して発売されたCD「さとうきび畑」は、クラシック歌手としては異例の20万枚を売り上げた。

 世話になったはずの「友の会」は、デビュー前に解散してもらった。狭い枠に縛られたくなかった。

 今や新垣は自ら設立した事務所の社長。仕事を自分で選べる立場になった。若い頃から何度も失恋を経験してきたが、現在は結婚を考えている女性と一緒に暮らす。

 ハッピーエンドと言っていいのだろうか。

 「でも、あと10年早くこうなっていたらと、考えずにはいられないんですよ」

 欲を言えば切りがない。でも、欲がなければ、前に一歩も進めない。新垣はまだ、満ち足りてはいない。=敬称略

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