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おしゃべりな出席簿

「まさか」でつながる縁

写真: 拡大

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 所用があって、本土へ出ていた。島に帰るフェリーに乗ると、「あ、先生」。懐かしい声。おかえり、戻ってきたんだね。それは、一人の3年生の姿だった。

 思い出すのは、年明けのこと。「先生、新年早々ごめんなさい……」。受話器から聞こえる弱り切った声。さすがにこっちも身がまえる。「なにか困ったことあった」「はい、実は……」

 冬の季節はフェリーが減便、それに伴いダイヤも変更。最後の便は、暖かい時期よりわずかに出港が早いのだ。「列車から遠ざかるフェリーが見えたんです」。翌日は始業式だった。しかたないね。明日おいで。おうちの人は知ってるの。

 島外出身・寮生の彼女は、港まで一人旅。必要なことを電話越しに一つずつ確認する。「じゃあ、気をつけてね」。受話器を置いて、各所に報告。そして次の電話を待つこと1時間。

 「先生、本当にすみません」。よく似た声に話し方。「お母さんこそ、大変でしたね」。苦笑交じりの情報交換が続く。どうやら宿は決まったらしい。

 「女性専用のドミトリーがあって」。それでね、と一呼吸。“もう、聞いてくださいよ”が、それとなく伝わってくる。「お客さん、うちの子だけみたいで、観光に連れてってもらうって」。畳みかけるようにやってきた“まさか”。ハプニングが新しい縁を結んだ模様。彼女は温かい人のつながりを感じて一晩を過ごしたことだろう。

 最後の“まさか”は翌日の朝訪れた。町内放送が響く。「本日、海上時化(しけ)のため……」。船は全便欠航。そのまま西日本は爆弾低気圧に包まれた。

 この時期、3年生の登校日は数えるほどだ。1月は始業式を含めて2日。それから、卒業式直前に2日。その間は希望者特別講習となる。過半数の生徒たちは全国に散らばって、進学準備に突入だ。頑張ってやってきた彼女は、島に渡らないままとんぼ返りとなった。

 「しかたないね」と脱力した、あれから1カ月半。懐かしさついでに件(くだん)の宿泊施設のサイトを見る。あの時はどこに泊まるかが心配で、検索をかけたけど……。ブログの最新記事にはお菓子の写真。1カ月半前に泊まった学生からのお土産だって。それは彼女の進学先がある土地の銘菓だった。やっぱり、お礼に行ったんだ。

 時にはうっかり失敗もある。でも、彼らは驚くほどしなやかに、様々な縁を取り結ぶ。まもなくみんな、新しい生活に出航だ。出会いを大切にする彼らは、これからどのようなつながりを結んでいくのだろう。

■石橋直子 県立高校国語教諭。2009年、第1回山陰文学賞エッセー部門大賞。10年、第11回難波利三・ふるさと文芸賞特選。1984年、安来市生まれ。

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