メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

02月24日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

東京を生きる

東京)(7)わが城 空っぽ 心も軽く

写真:「空っぽ」の部屋。沼畑直樹さんが家族と過ごす=武蔵野市 拡大「空っぽ」の部屋。沼畑直樹さんが家族と過ごす=武蔵野市

 これが欲しい、あれも欲しい。つい背伸びしたくなる東京ライフ。疲れてしまったら、地に足をつけて等身大の自分に。モノも「見え」も手放せるなら。

 テーブルと椅子、棚、床に置いたテレビ。15畳のリビングダイニングにあるのはそれだけだ。

 ここは川、あそこは山。そこにはお城がある。川を飛び越えて、お城の扉を開けて……。

 沼畑直樹さん(41)=武蔵野市=が長女の詠(えい)ちゃん(2)といつもの空想遊びを始めた。

 部屋の外は、きょうもきっとにぎやかだ。吉祥寺駅から歩いて約7分、雑貨店や家具店などが並ぶ商店街の一角にある1LDKのマンション。テレビを消した静かな部屋で、直樹さんは思い返す。

 なぜ、モノに支配されていたのだろう、と。

 札幌市出身。沖縄の放送局で働き、26歳で新宿区の小さな出版社に転職した。部屋を借りたのは渋谷区の代官山。週末はカフェやインテリアショップ、洋服店めぐりをした。

 32歳の時、コンテンツ制作会社を設立。事務所を兼ねて吉祥寺の中古マンションを2100万円で購入した。にぎやかな街の雰囲気と、アニメの仕事に携わる妻の富美子さん(41)の職場に近いのが理由だった。

 手に入れた自分の城は、顧客に自分のセンスをアピールする場。壁に近所の古本屋で買った海外の古い雑誌やパリの地図、洗面台にはパッケージ入りの外国製のせっけんを飾った。南青山の紳士服の仕立屋にあったのと同じようなアンティーク風ミシンを買い求め、リビングに置いた。本棚は自分が好きな歴史書や富美子さんのCDで埋めた。

 2013年の春、詠ちゃんが生まれた。おむつに、タオルに、おもちゃ。気づけば40平方メートルの我が家はモノであふれていた。押し入れは衣類でいっぱい。リビングには本棚と3人掛けの布張りのソファ、それと仕事用の机が二つ。リビングと寝室の本棚は本400冊とCD300枚が並び、もう何も置けなかった。

 引っ越しは簡単に考えられない。夫婦とも吉祥寺を離れたくない。

 ある日、妻に言われた。

 「もう、捨てよう」

 ◇モノを手放し 見えてきた風景

 本は古本屋へ。洋服はほとんど処分した。洗面台に飾っていた外国製のせっけんは思い切って使い、本棚もテレビ台も机も、それからソファも捨てた。「家族だんらんができなくなる」「本当に必要だったらまた買えばいい」――

 1年半後、ほとんど何もなくなった。「これがないと自分ではない、という思い込みや見えがあった」。心も軽くなった気がした。

 ヒトやモノを吸い寄せ、情報もあふれる東京。そこにぽつんと、静かで空っぽの自分たちの城がある。「情報が遮断された空間が心地いい」

 いま向き合うのはモノではない。車を買い、家族と一緒にキャンプに出かけるようになった。見えなかったものが、見えてきた。

 (浦島千佳)

 ◆「東京を生きる」はこれで終わります。

PR情報

ここから広告です

東京総局からのお知らせ

東京総局では、都内の最新のニュース、企画、特集などをお届けしています。
身の回りで起きたちょっといい話をメールで「東京取材班」あてにお寄せください。メールはこちらから

朝日新聞 東京総局 公式ツイッター

注目コンテンツ

  • 【&BAZAAR】落語家、ぱいぱいの後輩に

    立川志ら乃「ラクゴのラ」

  • 【&TRAVEL】彩り鮮やか、手織り寿し

    京都ゆるり休日さんぽ

  • 【&M】ハゲ隠しに限らないベレー帽

    やんちゃジジイの艶出し講座

  • 【&w】石田衣良が挑戦<PR>

    紅茶の「ティースティング」

  • ブック・アサヒ・コム漫画大好き!織田信成

    「面白そうだったら何でも」

  • WEBRONZA芸能界の異常な労働環境

    清水富美加さん出家騒動

  • 写真

    ハフポスト日本版 80年代アイドルは今

    「伊代は、まだ16だから」

  • 朝デジ就活ニュース

  • 転職情報 朝日求人ウェブ