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凸凹の輝く教育

孤立した子から異才発掘

写真:階段の高さなどを測り、ビルの高さを測定する子どもたち=2月末、目黒区駒場の東大先端科学技術研究センター(「ROCKET」提供) 拡大階段の高さなどを測り、ビルの高さを測定する子どもたち=2月末、目黒区駒場の東大先端科学技術研究センター(「ROCKET」提供)

写真:「ROCKET」プロジェクトディレクターの中邑賢龍・東大先端科学技術研究センター教授 拡大「ROCKET」プロジェクトディレクターの中邑賢龍・東大先端科学技術研究センター教授

 ◆才能あるが不登校、小中学生対象プロジェクト

 ■学び 自ら選び自ら行動

 才能があるのに、皆と違う方向を見ているからと孤立し、自信をなくし、不登校に――。そんな学びの機会を失った小中学生に、好きなことを追い続け、時間を楽しむことを教えていく異色のプロジェクトがある。東大先端科学技術研究センターと日本財団による異才発掘プロジェクト「ROCKET」。ユニークさを発揮し、未来のイノベーションを起こそうという取り組みは4年目を迎えた。(宮坂麻子)

 2月末の朝。東大先端科学技術研究センター(目黒区駒場)に集まった小6〜中3の10人は、いきなり言われた。「午後3時までにこのビルの高さを測れ」。手元にあるのは、メジャーと分度器だけだ。階段1段1段を測る子、ひもを探してきて屋上から下げる子、外壁に等間隔に並ぶコンクリートの穴を数えて計算する子……。

 大阪府の松下宗嗣さん(12)は、ビルの影の長さから割り出そうと考えた。数学は得意だが失敗。「理屈と現実の差を感じた。現実を見た上で、分析し、試行錯誤できる力もつけないといけない」と話す。

 松下さんは、幼稚園になじめず、「ぼくは人間じゃないのかも」と泣いて辞めた経験がある。そのころ覚えた元素周期表がきっかけで、鉱物に興味を持ち、小6で鉱物鑑定士に。小学校は登校したが、友達から「大人と話しているみたいで吐き気がする」などと言われ、休み時間も1人で図書室にこもるか、中庭で植物と話すかだ。

 0から1を生み出す魅力、興味あることに熱中する仲間にひかれ、ROCKETに応募した。「教科書はないけど、自分で教科書を作れと言われている気がする。どんどん自分で考えていく環境が心地いい」

 ROCKETは、2014年12月にスタート。全国の小3〜中3を対象に募集し、審査で毎年のメンバーを決める。10倍以上の応募から選ばれた、松下さんほか今の4期生は32人。1期生から合計92人だ。

 自分の好きな活動を広げる申請をし、認められれば、パソコンなど申請した道具がもらえ、個々に究められる。また、国内外で活躍するトップランナーの講座や多彩な学びのプロジェクトも用意される。ただ、学びを選ぶのは自分だ。

 ビルの高さ測定で、現実と数学の必要性に気づいた子たちは、来週、六本木ヒルズの測定に挑む。今度は共同作業が鍵となる。

 社会科学に興味ある子たちで宮城県石巻市を訪ねて、山道に置かれたほこらなどを手がかりに、漁師さんらと交流しながら、昔の暮らしと今を探る企画。ゲーム好きな子たちで、文化財など価値のある建物をマインクラフトというものづくりゲームで制作し、技術やロジスティクスを学ぶ企画などもしてきた。

 ■旅・研究…好きなこと追う

 重要なのは、1人で交渉して行動する力をつけるプログラムだ。1人10万円の資金を自身で作って北海道の炭焼き窯を再生したり、宿泊先の予約なしで3日以内に目的地をめざしたり。

 「ROCKETに入っていなかったら、1人で行動できなかったし、好きな世界も広げられなかった」と2期生で神奈川県の山下光さん(14)は振り返る。

 集団生活になじめず、小5で登校をやめた。記憶に偏りがあり興味あること以外は忘れがち。だが、多才だ。小3からパソコンで作曲。オーケストラ、ビッグバンドジャズなど向けに年間200〜300曲を作り、ネットに上げ、オーケストラに演奏してもらったこともある。一方、公園で見つけたキノコに興味を持ち「キノコ博士」に。博物館で採集などのボランティアを月1、2回するほか、自身で採集、観察、標本、寄稿。15年にはネット上でキノコ検索サービスも発表した。ドラマ制作も手がける。必須道具は、ROCKETでもらった最新の顕微鏡やパソコン。キノコ研究者を訪ねて一人旅をし、仲間と豪雪地帯への旅もした。

 「東大生でも指示をしないと自分で動けない子が多い。どんな状況でも、自立して生きられる子になってほしい」と福本理恵・東大特任助教(36)は言う。

 参加メンバーの約半数は登校できるようになり学校へ戻って、進学の道へ。ほかの半数は学校に見向きもせずより好きなことに打ち込む。プロジェクトを立ち上げた中邑賢龍・東大教授(61)は言う。「二つの道を進んだ子が再び大人になって交わる未来が楽しみだ」

 ■不登校の子、過去最多 16年度、文科省調べ

 不登校や発達障害の小中学生はどれほどいるのか。文部科学省の調査で、2016年度に1年を通じて30日以上登校しなかった不登校の児童生徒は、小学校で3万1151人(1千人あたり4・8人)、中学校で10万3247人(同30・1人)で、いずれも1千人あたりで過去最多になった。

 また、同省は、12年の調査で、全国の公立小中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、発達障害の可能性のある小中学生が6・5%、推計で約61万人にのぼり、35人学級に2人程度の割合になるとしている。書く、読む、計算するなど特定の分野の学習に困難のある学習障害(LD)の可能性は4・5%、注意欠陥多動性障害(ADHD)とみられる児童生徒は3・1%という。

 発達障害の専門家は「診断されておらず、文科省の調査数にも上がっていない子の中にも、支援や合理的配慮を必要とする子がかなりいる。授業についていけなくなり、不登校になるケースも少なくない。診断の有無にかかわらず個々にあった学び方が必要だ」としている。

 ■ポジティブに学べる場を ROCKETプロジェクトディレクター、中邑賢龍・東大教授

 「変な子」と言われてしまう子どもたちは、みんな自信が持てないでいます。いつも叱られ責められている子を集めて、自信の持てる学びの機会をもっとつくりたい。凹のある子ほど素晴らしい凸もあるんです。

 構想が三つあります。

 一つは、名付けて「アカデミックリゾート構想」。不登校も発達障害の子も関係なく、

全国の小中学生に10日間の「お休み券」を配る。その券があれば、10日間、子どもは好きな所に行って好きなことが学べる。自治体や賛同する企業に、様々な学びの場を提供してもらい、全国で受け入れる。

 例えば、小麦粉で有名な群馬県館林市に行けば「パンケーキの神様」が粉ものセミナーをしてくれたり、北海道根室市に行けば漁師さんが昆布のスペシャリストとしてセミナーを開いてくれたり。隣の小学校に面白い趣味を持っている先生がいたら、そこに行って、その先生の授業を受けてみるのもいい。自ら学びを求めていく10日間。大人たちも自信の持てる学びを披露してくれる。真のアクティブラーニングです。

 二つ目は、こども食堂ならぬ、「こどもホテル」です。親の言う通り勉強や生活がうまくできない。学校に行きたくない。日常の小さなことで親子のあつれきが生まれ、やがて家庭内暴力につながる。家が嫌になった時、ちょっと行ける安全な場があれば、そこに話し相手になってくれる大人がいれば、暴力や自傷行為、事件などに至らず落ち着くことができる。ちょっとした冒険心が自立をうながすきっかけにもなる。

 三つ目は「家出バス」。「こんな家もう嫌!」という子向けに、目的地を告げない無料バスを日時を決めて発車させる。バスに乗った子は親から離れてどんどん遠くへ。不安になったら途中下車し家に帰ればいい。ずっと帰りたくない子は、北海道の牧場など遠くの終着点まで行って自分で交渉して、何日か過ごして家のありがたみを感じる。

 集団に適応できないから引きこもるのは仕方ないというネガティブな考えは捨てる。もっとポジティブに学べる場を大人たちがつくって、どんな子も自信を持って1人で生きられるようにしなければ、未来は大変なことになります。

 夢のような構想と思うかもしれませんが、大人たちがやる気になればすぐできますよ。やりませんか、子どもたちのために。

 

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