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ぶらりふらり

ヘルマンさんのハム 脈々と 狛江

写真:ヘルマンの写真を前に足跡を語る飯田吉明さん=狛江市 拡大ヘルマンの写真を前に足跡を語る飯田吉明さん=狛江市

写真:「成城・城田工房」(03・3489・8611)の城田豊仁さん=狛江市東野川4丁目 拡大「成城・城田工房」(03・3489・8611)の城田豊仁さん=狛江市東野川4丁目

写真:泉龍寺にあるヘルマンの墓 拡大泉龍寺にあるヘルマンの墓

 小田急線狛江駅(東京都狛江市)にほど近い曹洞宗・泉龍寺の一角に、黒い洋風の墓石がある。

 「遥(はる)かなる祖国ドイツを誇り、第二の故郷日本を愛したヘルマン・ウォルシュケこゝに眠る」

 ヘルマンは、本場のハム・ソーセージの製法を日本に伝え、戦後はここ狛江で主に暮らした。地元の人たちは、親しみを込めて「ヘルマンさん」と呼んだという。

 1893年、現在のブランデンブルク州に生まれ、第1次世界大戦が始まると軍に召集された。日本は1914年、ドイツの拠点だった中国・青島(チンタオ)を占領。ヘルマンは捕虜となり、大阪を経て17年、広島の収容所に入れられた。

 18年の大戦終結後、ほとんどの捕虜は祖国に帰ったが、ヘルマンは身につけていた食肉加工技術を伝えようと、日本にとどまり、関東や関西の食品会社などで働いた。34年、ベーブ・ルースが来日した日米野球では客にホットドッグを販売。これが日本で売られた初のホットドッグとされる。

 39年、ドイツがポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が始まる。同盟関係にあった日独は45年、相次ぎ降伏。長野に移り住んでいたヘルマンはほどなく、狛江にあった家畜解体施設の一部を借りてハムやソーセージの製造を始めた。

 「当時の狛江は湧き水が豊富だった。終戦前から解体施設があり、肉も入手しやすい。それでこの地に移り住んだようです」と飯田吉明さん(80)。ヘルマンの足跡を調べようと、2013年に立ち上げた市民団体の代表だ。

 狛江生まれの飯田さんの実家の近くに、ヘルマンは日本人の妻や子どもたちと暮らしていた。真面目でコツコツ働く根っからの職人。50年には長野に店を構え、同じ頃に狛江に新工場を設けるなどして事業を拡大した。群馬の養護施設に、ハムなどを定期的に贈り続ける優しさもあった。

 63年、上野駅で倒れ、69歳で世を去る。ドイツは戦後、東西に分断されていた。ヘルマンの故郷は冷戦で対立した東ドイツにあった。「帰りたい気持ちはあったが、なかなか許可が下りなかったようです」と飯田さん。東西ドイツの統一は、ヘルマン没後30年近くが過ぎた90年のことである。

 ヘルマンゆかりのハム・ソーセージ店が市内にあると聞き、訪れた。「成城・城田工房」だ。

 店長の城田豊仁(とよひと)さん(43)は隣接の東京都世田谷区出身。東京農業大学を卒業後、大手ハムメーカーのグループ会社に就職した。グループ内の別会社に、すでに還暦を超えたヘルマンの次男がいた。毎月1回、グループの社員十数人が集まって製法を学ぶ場で、その次男から教えを受けた。

 「体が大きく、『ザ・職人』という感じで、厳しかった。口癖は『仕事は早く丁寧に』。必要最小限の添加物と新鮮な肉を使い、本物のハム・ソーセージの作り方を教えてくれました」

 城田さんは30歳手前で退職後、いくつかの業者で修行し、2008年に自分の店を構えた。群馬の農家から仕入れた豚肉を材料に、保存料や着色料は使わない。「教えがすごく役立っています」。

 ヘルマンの死後、彼の事業は傾き、今では工場も自宅もない。「市民でも知らない人が多い」と城田さん。飯田さんも「痕跡といえば墓ぐらいです」と残念がる。

 城田さん自慢のソーセージをいただいた。市民に人気の一品だ。肉のうまみがぎゅっと詰まり、口の中に濃厚な肉汁があふれる。

 その名の記憶は薄れても、「ヘルマンさん」は確かにこの地に息づいている。

(河井健)

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