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07月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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凸凹の輝く教育

ツール(1)「そうか!」チャート

写真:「そうか!」チャート画面。子どもの困難に合わせて選択肢をクリックしていくと、支援策などが表示される=マイクロソフトのホームページより 拡大「そうか!」チャート画面。子どもの困難に合わせて選択肢をクリックしていくと、支援策などが表示される=マイクロソフトのホームページより

写真:男子児童が最近書く漢字は、枠の中にきれいに収まるようになってきた 拡大男子児童が最近書く漢字は、枠の中にきれいに収まるようになってきた

写真:「そうか!チャート」をはじめ、様々なツールを開発している松江市立意東小学校の井上賞子教諭 拡大「そうか!チャート」をはじめ、様々なツールを開発している松江市立意東小学校の井上賞子教諭

 ■読み書き困難さ 見える化

 狛江市立緑野小学校の特別支援教室「ふたば教室」の2時間目。2年生の男子児童(8)が、先生と1対1で国語の「スーホの白い馬」を学んでいた。通常学級に通う児童だが、読み書きが苦手で、週2回程度ここで学ぶ。

 「モンゴルには、広い草原が広がっています」「馬頭琴(ばとうきん)というがっきがあります」――。「音声付教科書」の文章を、専用の電子ペンでタッチすると、「朗読」が流れた。行を飛ばしたり、同じ文章をタッチしたりすることもあったが、最後まで終えた時には、話の内容はすべて理解できていた。「最初に比べたら、随分成長しました」と佐藤直幸教諭(33)は話す。

 小1のころはひらがなもカタカナもうまく読めず、文字をなぞらせても線がまっすぐ引けなかった。小2も最初は「もう絶対やんない!」と勉強を拒否したり、自分の頭を「バカバカー」とたたいたりもした。ただ、会話はうまく、佐藤教諭は「言語力は高い」と感じた。

 そこで使ったのが、「そうか!」チャート。学校で特別支援教育にあたる教師らが作り、日本マイクロソフトが2015年からネット上で公開しているツール。目の前の子の状況に合わせてクリックすると、読み書きの苦手さがどこから来ているのかや、どんな支援が有効なのか、ヒントがもらえる仕組みだ。

 男子児童も、一つ一つ確かめてみた。文節ごとにスラッシュや空白の区切りを入れたら分かるのか、雑音(ノイズ)がない個室なら読めるのか、白色の紙ではなく違う色ならばどうなのか……。チェックした結果、音読された内容ならば一度聞いただけで、理解できる力があるとわかった。そこで「音声付教科書」を使い始め、国語も嫌がらなくなってきた。

 大嫌いだった書くことも、アプリやプリントで練習してきた。今では自分で手書きの「漢字クイズ」を作って教室の壁にはり、周囲から人気を集める。「漢字を読むのはちょっと慣れてきた。あとは自分の名前、家族の名前を今よりもきれいに書けるようになりたい」と男子児童は話す。

 佐藤教諭は「なんとなくおかしいな、読み書きの支援が必要だなあと思う子はどの通常学級にも3、4人程度はいます」と話す。文字の形が整わず、マスに収められない。鏡文字になる。漢字の部首がバラバラだったり、線が一本多かったり。文章を読む時も一文字ずつ目で追っていてすんなり読めない……。「なんとなく」を具体的な支援に変えるのに、「そうか!」チャートの存在は大きいという。

 支援が必要な児童は増えており、経験の少ない若手教諭が指導する例も少なくない。東京都では今年度から小学校で、支援の必要な児童が近くの学校の教室に通う「通級指導」ではなく、教師が周囲の学校を回って支援の必要な子を教える「巡回指導」に全面的に切り替え、支援の必要な児童が新たに見つかっている。

 1月、若手教諭の研修で佐藤教諭は「そうか!」チャートを紹介した。それぞれの子で必要な支援が違う。でもその子のその年齢、その時の学校生活を無駄にはしたくない。「困っている先生も保護者も、支援方法を探るための一つのツールにしてみては」

 (宮坂麻子、横川結香)

 ◇

 4月から新学年が始まります。このシリーズでは、自分に合った「めがね」を探すように、生活や学習の場でちょっとした助けになるツールを紹介していきます。新しい友だち、新しい先生、新しい環境の中で、凸凹のある子どもたちが輝けるように。

 ■それぞれに合った支援と環境を 松江市立意東小・井上賞子教諭

 「そうか!」チャートの開発者の1人、松江市立意東小学校の井上賞子教諭に、ツールとのつきあい方を聞いた。

 *

 「そうか!」チャートは、日ごろ無意識にやっていることを「見える」ようにした内容です。子どもが困っていることに気づく先生はたくさんいますが、どうすればいいのか、迷うことが多い。そういう時に試してください。ステップを踏む中で見えることもたくさんあります。家庭でも使えます。

 困難のある子たちは、学ぶスタートラインに立てません。例えば、漢字練習でノートに書く場合は様々な力を使います。形を覚え、マスに収める予測をたて、手を動かすことが必要です。でも、記憶や形の捉えに困難があると、手を動かす前の段階でつまずきます。どこが苦手なのかもわからないまま、終えられない課題を子どもに与えても、意味はありません。

 学習は「できた→わかった→もっとやりたい」と繰り返すことで伸びます。ツールを使って、まずは本人の自信をつけてほしい。教員や保護者がついていなくても学べれば、継続につながります。教員側も、その子にあったツールを探すことを通じて、何に困っているか、具体的に分かるようになります。子どもの得意・苦手を知ることは、障害の有無に関係なく教育に大切なことです。

 ただし、万能なツールはありません。ある子どもの学びのために「こんな物差しが欲しい」と思って作っても、同じような苦手がある別の子には全く役立たないことが多いです。私は今まで、スーツケース20個分以上のアナログツールを作ってきました。デジタルでも同じです。合わなかったことでがっかりせず、次へつなげてください。

 教室では、眼鏡をしている子としていない子が一緒に学んでいます。車いすの子とそうでない子も、同じ空間で思い出が生まれます。これからの時代は、それぞれに合った支援ツールを選び、共に学べる環境を作ることが本当に大切だと思います。

 (聞き手・宮坂麻子)

 

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