朝日新聞デジタル：インタビュー（５）佐藤里美さん - 東京

印刷

凸凹の輝く教育

インタビュー（５）佐藤里美さん

佐藤里美さん

　◆ソフトバンク株式会社「魔法のプロジェクト」ディレクター

　国のＧＩＧＡスクール構想により、小中学生が「１人１台」のパソコンやタブレット端末を使えるようになる時代が来ます。学校の先生にお願いしたいのは、使い方を狭めないで欲しいということです。

　ソフトバンクグループでは、ガラケー（従来型の携帯電話）が多かった２００９年から、携帯電話の写真やメール、録音などの機能を、ハンディキャップのある人に役立てる研究事業を始めました。

　１０年に第１世代のｉＰａｄが発売され、ソフトバンクで販売することを孫正義会長が表明した際にも、「ハンディキャップのある人に役立つのでは？」との声が外部からありました。

　そこで東大先端科学技術研究センターとともに始めたのが、障害のある子とその教育に携わる先生を支援する「魔法のプロジェクト」です。ｉＰａｄなど必要な端末や機器を提供し、今年度までに、全国から延べ１千人を超える小中高校、特別支援学校の先生らが参加しました。子どもと先生がペアで行う１年間の実践で、子どもの変わる様子が非常によく見えます。

　初めて参加した先生からは「ＡＤＨＤ（注意欠陥・多動性障害）の小３児童に、何かいいアプリを教えてもらえませんか」などと言われます。そんな時は「何にとっていいアプリですか」と尋ねます。どんな特性があり、学びや生活の何に困っていて、どんな力を伸ばしたいのか。一人ひとりのアセスメントが一番重要です。ｉＰａｄではない方がいい子もいる。ＩＣＴ（情報通信技術）で完全に読み書きの代替をするのか、それともほかの子と同じようにできるようにするための「助走」なのか。

　子どもが自分自身で、自らに適した活用法を探れるよう自立させることも大切です。そのためには、学校だけでなく、家庭でも子どもの特性に応じた学びができるような使い方にすることです。

　グループ企業のＳＢプレイヤーズでは１４年から、読み書きが苦手な子に学習支援を行う教室「ハイブリッド・キッズ・アカデミー」を始め、これまでに約１５００人が受講しました。

　１８年には、不登校などの子どもが自分で学べるオンライン教材「ｐａｌｓｔｅｐ」を作り、学校や教育委員会を通して広め始めました。学校で作ったプリントなども共有できます。特に大切なのは、子どもとのコミュニケーションを目的にしたチャットボットです。「今日何時に起きた？」「お風呂入った？」「ご飯は何食べた？」などと問いかけることで、生活が昼夜逆転していないかなどを確認できます。

　「１人１台」が実現したら、貧困やネグレクト（育児放棄）の家庭の子にも情報リテラシーを教え、人に助けを求めるツールとしての活用法も学んでもらいたい。端末を子どもの未来に生かせるかどうかは、教委や学校、先生にかかっています。

　（聞き手・宮坂麻子）

　　　　　＊

　東京都出身。ＮＥＣを経て、ソフトバンクＣＳＲ統括部・魔法のプロジェクトディレクター。東大先端科学技術研究センター支援情報システム分野協力研究員も務める。著書に「特別支援教育ですぐに役立つ！　ＩＣＴ活用法　『魔法のプロジェクト』の選りすぐり実践２７」ほか。

PR情報