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09月23日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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元気力

万年筆職人 山本 竜さん

写真:山本竜さん 拡大山本竜さん

写真: 拡大

◆旅行鞄の音から始まる縁

 ガラガラッ。旅行鞄(かばん)の音が工房の前で止まった。

 旅行や出張の方が、鳥取駅前に私たちが構える「万年筆博士」のショーウィンドーをご覧になり珍しそうに入っていらっしゃる。よくあるケースだ。

 5人ほど入っていらっしゃると、早速「万年筆を注文したいのですが」「以前より鳥取に来た際にはと思っておりまして」と気持ちがお決まりのご様子。次々に皆様の書き癖を診させていただいた。

 「つのだ様ですか?」と聞くと「かくたと申します」と。とても早書きだが柔らかい表情の文字だ。

 「随分と文章を書きなれた感じですね」と聞くと「恥ずかしいのですが、もの書きの端くれでして」と。そんなやり取りがあった。

 この度はお仕事で鳥取にいらっしゃったのですかと尋ねると、鳥取についての取材で来たのです、と。直木賞作家の角田光代先生と新潮社の編集長さんをはじめスタッフの方々だったのである。

 深々とお辞儀をしてお見送りした後、斜め前の本屋に走った。有名な先生のようだが、その本屋にあるだろうか、なんてことは、杞憂(き・ゆう)だった。角田先生のコーナーが一番目立つところにあったのだ。数冊買ってすぐに読破した。まったく恥ずかしいのは私の方である。

 実は、同じようなことが過去にもあった。芥川賞作家の宮本輝先生の時も、斜め前の本屋に走って、先生のコーナーの大きさに驚き、本屋の本棚に思わず一礼したものだ。

 約1年半後、角田先生へ万年筆を納品。その後、先生は神奈川近代文学館の「作家と万年筆」展で、夏目漱石や江戸川乱歩の直筆原稿や万年筆とともに角田光代のものとして、当社製の万年筆をお披露目してくださった。また、万年筆の注文から出来上がりまでの心境をエッセー集「世界中で迷子になって」の「なぜか言い訳」でご紹介してくださった。

 たった1本の万年筆を通して、こんなに出来事やドラマが生まれるものだろうかと、いつも不思議に思う。万年筆とは実に不思議なアイテムだ。その不思議な力で私の恥ずかしい応対すら許されてきたように感じる。

 私の下手な字や文章でも手書きのおたよりを書いてみると、心が豊かになるコミュニケーションがとれるように思う。

 ガラガラッと旅行鞄の音が工房の前で止まると、今日はどんな素敵な出会いがあるのだろう、と楽しみになる。

◇◇

 やまもと・りょう 1974年生まれ。2008年から鳥取市にある有限会社万年筆博士の代表取締役。顧客の書き癖に合わせたカスタムメイド万年筆を製作している。納品まで約1年かかるが、世界中から愛好家の注文が集まる。

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