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北陸六味【京都国立博物館名誉館員 久保 智康さん】

惨事から希望 美術の力

写真:高橋雅子(ARTS for HOPE)「アートで何ができるかではなく、アートで何をするかである」=展覧会は年明け1月20日(日)まで 拡大高橋雅子(ARTS for HOPE)「アートで何ができるかではなく、アートで何をするかである」=展覧会は年明け1月20日(日)まで

 先日、千葉の檀家(だん・か)のおばあさんが亡くなってお葬式に出かけた帰りに、東京・六本木の森美術館に寄った。気になっていた展覧会を、この機会に観(み)たいと思ったからだ。展覧会のタイトルは「カタストロフと美術のちから」。

 大震災や大事故などのカタストロフ(大惨事)のあとに、現代美術は何ができるのか、あるいは何をしたのか。惨事に打ちひしがれた人たちに何をもたらしたのか、というとても重いテーマだ。阪神淡路、東日本、熊本、そして最近の北海道胆振東部など大震災があるたび、上記の問いの美術を「仏教」「僧侶」に置き換え考え込んでしまった僕は、展覧会が何を語るのか、この目で観たかった。

 正直にいうと、日常的に古美術を観ている筆者にとって、現代美術というのは難解、自己中心的、饒舌(じょう・ぜつ)、寡黙、何でもあり……、という失礼な先行イメージがあり、大災害に見舞われた人に相対したとき「力」を持ち得るのかどうか、展覧会を観るまでピンとこなかった。

 じっさい、最初のコーナー「美術は惨事をどのように描くのか」の冒頭作品「崩落」(トーマス・ヒルシュホーン)は、2階建て建物の壁が崩れ落ち部屋の中が剥(む)き出しになった様を展示室いっぱいに造形する。ピカソの「すべての創造は破壊から始まる」という言葉の引用に、作者やピカソの思いと関係なく、暗たんたる気分になった。

 この作品の後も、世界各地の様ざまな災害を描いた絵や写真が続く。福島第一原子力発電所の炉心溶融事故について、ウルトラマンのカラータイマーならぬ黒い電波時計の表面に、線量検査に従事した作業員の顔を塗料で描いた「ブラックカラータイマー」(平川恒太)などもある。

いずれの作品も、起きた惨事に真摯(しん・し)に向き合い、記録し、その理不尽さを訴えてくる。――しかし、“希望”という名の美術の力を感じることはできない。それほどにカタストロフは圧倒的だ。

 ところが後半の「破壊からの創造――美術のちから」の作品群は、一転して希望に満ちている。東日本大震災後に発足した緊急支援チームARTS for HOPEのワークショップ作品「アートで何ができるかではなく、アートで何をするかである」=写真。福島県いわき市の被災し倒壊した灯台の模造品を住民たちで引っ張り起こす「The Lighthouses――11.3 PROJECT」(加藤翼)の記録。人災以外の何者でもない難民問題の解決を願い、観覧者が壁にメッセージを書くインスタレーション「色を加えるペインティング(難民船)」(オノ・ヨーコ)。

 これらに共通するのは、災害の当事者、あるいは観覧者が制作に参加して希望を見いだしているということで、本展のいう美術の力の源泉がどこにあるかわかった気がする。

 被災者にただ寄り添い、慰めること。それも悲しみに暮れている人には必要ではあろう。しかし次には、「何か生み出そう」という意識を、被災者を含む多くの人たちが共有することで希望へとつながる。そんなシンプルで大切なことを教えてもらった。観るまえのネガティブな予感はどこへやら。あったかな気持ちで六本木をあとにした。

 そして僧侶としての僕がしなければならないのは……。生き残った人の「何か生み出そう」という意識(希望)を、逝った人の意識とつなぐこと、共振させることだ、と考え始めていた。(京都国立博物館名誉館員・僧侶)

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