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北陸六味【北陸学院大准教授 田中純一さん】

復興 住む主体を考える

 2004年12月に起きたインドネシア・スマトラ島沖の大地震とそれに伴うインド洋津波では、死者・行方不明者が22万人以上に上った。なかでも壊滅的な被害を受けたのが、スマトラ島北部アチェ州の州都・バンダアチェだった。筆者は09年と13年の2度、郊外にある高台に建てられた復興住宅を訪れた。

 当初、政府は津波で被災した住民を、海岸線から離れた安全な場所に移住させようとした。山の上にある復興住宅はその典型だ。しかし、地震から5年たった09年にはすでに、明らかに人が住んでいないとわかる住宅があった。

 13年には現地の研究者の案内で、やはり高台にある通称「ジャッキー・チェン村」を歩いた。中国赤十字会などの支援で建てられた600棟もの復興住宅だ。カーテンもなく人の気配のない住宅や、玄関に雑草が生い茂って長期間、人が住んでいないと思われる住宅がさらに目立っていた。

 住宅再建を果たした世帯もあるにはあったが、復興住宅の「空洞化」には別の理由があった。

 津波で被害を受けた住民のほとんどは漁業従事者だ。彼らにとって海は職場であり家族と暮らす場。職住近接が当たり前だった漁師にとって、山の上から20キロ近く離れた海へ「通勤」することは想像もしていなかったのである。復興住宅の方が耐震性もあり、建物としては整っている。しかし、彼らが選んだのは海の近くに自分たちでこしらえた掘っ立て小屋だった。

 他にも理由がある。漁師たちが大切にしていた「二つの縁」だ。一つは血縁、もう一つは土地の縁(地縁)。インドネシアの人びとは先祖や家族・親類とのつながりを重んじる。同じ集落に多くの親類が助け合いながら暮らしている。そのため、住み慣れた場所への愛着が強い。

 海岸線から離れた安全な場所に住民を移住させようとした政府のプランは失敗だったといってよいだろう。私たちはこのことから何を学び取ることができるだろうか。それは「安全・安心」の考え方だ。

 津波リスクを回避するという点では高台への移住は正しいようにも思える。しかし、漁師にとって大事なのは、労働面では職住近接であること、生活面では先祖や親類、近隣住民との関係が染み込んだ場所での暮らしなのだ。

 自然を相手にする漁師にとって、暴風雨で不漁続きといった小さな脅威は日常的だ。そんなときは近所や親類同士で生活を補い合い助け合ってきた。それゆえ、高台で暮らすというプランは、住民にとって安心感のある、未来を描けるものではなかった。むしろ互助による生活基盤こそが、何があっても生きていけるという安心感を住民に与えていたように思える。

 住む主体は誰なのか。復興を考えるうえでこの一点が重要な軸であることを、インドネシアの漁師は教えてくれた。(北陸学院大教授)

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