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北陸六味【京都国立博物館名誉館員 久保 智康さん】

沖縄 遺骨への強い想い

写真:神社の参道脇に置かれた骨と石囲い=2009年、那覇市内、筆者撮影 拡大神社の参道脇に置かれた骨と石囲い=2009年、那覇市内、筆者撮影

11月29日付の本紙に、とても気になる記事が載った。人類学者として知られた旧京都帝国大学の故金関丈夫助教授が、1929年に沖縄県今帰仁(なきじん)村の百(もも)按司(じゃな)墓(ばか)から26人分の遺骨を研究資料として持ち帰り、葬られていた15世紀の琉球王家、第一尚氏の子孫と主張する人たちが、遺骨返還を京都大学に求め、京都地裁に提訴するという。

 筆者は仕事で沖縄へ行った折に、時間を作り信仰の遺跡を歩いてきた。百按司墓も20年近く前に訪れたが、運天港という港を見下ろす崖の途中の岩棚に、何体もの遺骨を納めた屋根付き木龕(もくがん)が置かれていた。その頃は龕(がん)が大破していて遺骨が周りに散乱していたが、今は文化財として整備されている。

 訴訟だからこの件にコメントするのは控えるが、沖縄の人が先祖の遺骨をとても大切に思う気持ちは分かる。今は法律上も火葬が普通だけれど、その昔は洗骨葬といって、遺体をある期間墓室に安置し、白骨になったころに墓室を開けて遺骨を洗い清めて、骨甕(こつがめ)や龕に納め直すという葬送がされていた。

 沖縄には、山や森じたいが祖先神への祈りの場であるところが数多い。そんな中を歩き慣れると、御嶽(うたき)と呼ばれる拝所や古墓(ふるばか)の在(あ)り処(か)がなんとなく分かる。後者では、古い骨甕から遺骨がのぞいているのを見かけることもある。

 また9年前、那覇市内のとある丘の上の神社へ石畳の参道を登りつめた辺りで、思いもかけない光景を見た。参道脇に、人のらしい骨が置かれ、石で囲われる。山麓(さんろく)に古墓があったから骨の由来はなんとなく推測できるが、誰がどういう意図で参道に置いたものか。この骨に強い想(おも)いがあったのは間違いない。

 ひるがえって、本土の墓はどうだろう。沖縄の人たちと同じように、亡き人の遺骨を納め大切に思う場ではある。しかし都会では墓地が不足し、IDカードを機械に挿すと立体駐車場のごとく自家のお骨を納めた箱が下りてくる、というお墓?も出てきている(他方、沖縄の墓はひたすら大きい)。また、木の近くに遺骨を埋める樹木葬や、海や山にまくという散骨葬を希望する人もいるという。人を大自然に還(かえ)すという想いと、世代を超えて墓を維持しなくていいという現実的事情から、理解できなくもない。

 もっとも一時期流行(はや)った歌“私はお墓の中になんかいません”という「千の風になって」には、ちょっと待って、と言わざるを得ない。亡き人の遺骨とそれを納めた墓へ抱く想いは、遺(のこ)された人たちのもの。沖縄でも本土でも同じはずだ。そんな想いを、逝こうとする人が一方的かつ情緒的に否定する、というのはいかがなものか。

 私見だが、仏教で遺骨と墓を大切にするのは、じつは釈尊の遺骨“舎利”に対する崇敬に通じていると思う。アジア各地の寺院は、歴史的に見ればいずれも舎利を祀(まつ)る仏塔が伽藍(がらん)の中心にあった。日本の古代・中世には、舎利があらゆる願い事をかなえるという舎利信仰も高まった。

 人が亡くなり成仏するというのは、釈尊と同格の存在になることだから、その人の遺骨は手厚く祀られ、敬われねばならない。またそれを祀るお墓は、寺の仏塔に当たる大切なモニュメントだ。

 ただそんな仏教的理屈をこねなくとも、祖先を敬い遺骨を大切にする沖縄の人たちに、本土のわれわれは学ぶことが多くあると思う。(京都国立博物館名誉館員・僧侶)

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