旅しよ！
東後畑棚田 (山口県長門市)
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【高橋豪】 日本海に面した絶景スポットが点在する山口県長門市。田植え期の夕景が特に人気なのが、東後畑（ひがしうしろばた）棚田だ。断崖絶壁に１００基を超える鳥居が並ぶ元乃隅（もとのすみ）神社に決して引けを取らない。多くのカメラマンが一瞬の輝きを追う。
日本海に突き出た半島の名前が何ともユニークだ。向津具（むかつく）半島。油谷湾をはさんだ向こう側に半島が見えることから名付けられた「向（むか）つ国」から転じたのだそう。元乃隅神社の近く、南側の斜面に棚田は広がっていた。
条件が重なれば、水が張った棚田が夕焼けを幻想的に映し出す。５月中旬から８月上旬にかけて、日本海にイカ釣り船の漁（いさ）り火がきらめく。５月初旬、棚田を訪れると、まだ水は張り始めたばかり。６０年以上、棚田でコメ作りを続ける永松泰さん（８５）は「あと一雨降ってくれれば。自然が相手だからね」。水源のため池は費用を出し合い、修理したばかりだという。
１９９９年、７ヘクタール２１０枚が「日本の棚田百選」に選ばれた。あずま屋が立ち、シーズンにはカメラマンでにぎわう。
だが、この美しい景観の保存も容易ではない。高齢化に伴って耕作放棄が進み、３０戸余りあったコメ農家は約２０年間で３分の１以下にまで減った。国や市の補助金にも支えられている。
１０日後の晴れた日、今度は夕暮れを撮りに出掛けた。先客の三脚が４台並ぶ。わずかに赤く染まる棚田の水面に息をのんだ。４年連続で来ている美祢市の会社員池田寛治さん（５９）は「今の時期は、半島の先に日が落ちるのでちょうどいい」。３月に転勤で山口県に来たという宇部市の公務員高橋知也さん（２３）は「忙しくて忘れていたけど、ぼーっと夕日を眺めるのもたまには良い」。
イカ釣り船３隻の漁り火が夕闇に浮かんだ。永松さんの水田には稲苗がびっしり生えていた。
◇ ◇
ＪＲ山陰線長門古市駅からタクシーで約２０分。中国自動車道美祢ＩＣからは車で約１時間。棚田へ続く山道は大型車両は進入不可、付近には約３０台分の無料駐車場がある。問い合わせは長門市観光コンベンション協会（０８３７・２７・００７４）。
◆味わう
ＪＲ人丸駅前の山口銀行油谷支店内に、市内で製塩業などを営む「百姓庵（ひゃくしょうあん）」が昨年７月、スペインバル「Ｄｉｎｉｎｇ Ｂａｒ Ｚｅｎ」を開いた。金庫の重厚な扉を残し、内部を改造した個室が楽しい。月、火、金曜日の午前１１時〜午後２時限定の油谷産の車エビを使ったパエリアのセット（税別１２５０円）が人気。担当者は「地元の食材のみを使い、自然由来のうまみを生かしました」。
◆出会う
向津具半島の西端近くの二尊院には、中国唐代の玄宗皇帝の愛妃・楊貴妃の墓とされる石塔がある。反乱から逃げ延びた楊貴妃が小舟に乗って半島に漂着。まもなく亡くなり、住民の手で埋葬された――。寺に残る伝承だ。「楊貴妃の墓」は、縁結びや安産などにご利益があるといわれる。周辺には１９９３年に中国風の庭園が整備された。中国でつくられた高さ３．８メートルの大理石像も立つ。
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