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 安保法案に反対の声を上げる学生団体が注目され、若者が国会前に足を運んでいる。しかし、ネット上では「デモに行けば就職できない」という声が飛び交う。本当に就職に不利になるのだろうか。

 都内に住む女子大生(19)は、衆院特別委の強行採決直後の15日夜、初めて国会前のデモに参加した。

 家を出る前、母と祖母に「デモに参加して就職できなくなった人も昔はいたのよ」と言われた。「行動しないと気持ちがおさまらない」と1人で出かけたが、「就職に響くって本当かな」という心配も、頭の片隅に残った。

 衆院の安保審議が大詰めを迎えた14日以降、「就職や結婚に響く可能性」などという大学生のデモ参加をめぐるツイートが次々と投稿された。「デモに行くだけで、確実に人生詰みますよ」「就職に不利益が…」。16日にツイッターに投稿されたつぶやきは約3千回もリツイートされた。

 「デモに行くなどの政治的表現の自由は、憲法が保障する権利の中でも価値が高いもの」と一橋大大学院の阪口正二郎教授(憲法学)は話す。しかし、誰を採用するかは「企業活動の自由」でもある。

 「三菱樹脂事件」では、学生の思想を理由に企業が採用を拒否したことが争われた。1973年の最高裁判決は「特定の思想信条を有する者を雇うことを拒んでも、当然に違法とはできない」とした。しかし、学界から「憲法で保障される思想、信条の自由を考慮していない」と批判され、三菱樹脂社も結局学生を雇った。阪口教授は「企業が思想で採用を拒む自由は、時代を追って狭くなっている」と指摘する。

 職業安定法が99年に改正され、企業が求職者の個人情報を集めるのは業務に必要な範囲に限られた。厚生労働省は思想信条などに関わる情報の収集を原則禁止する指針を出している。

 雇用問題に詳しい成蹊大の原昌登教授(労働法)は「労働法学界では、職務内容や能力と関連がないにもかかわらず、思想信条を理由に採用拒否するような行為は公序良俗に反し不法行為になるという考えが多数派だ」と説明する。また、思想を理由に内定を取り消された場合は、労働基準法違反で無効になる。

 思想信条による企業側の採用拒否について「あるべきではないが、あり得ないともいえない」と話すのは就活事情に詳しい千葉商科大専任講師の常見陽平さんだ。「社風によっては敬遠することもあるかもしれないし、不採用の理由は明かされないから分からない」

 一方、企業は近年「社会問題への感度の高さを評価する傾向にある」という。「国会前に足を運ぶのは、デモでヘイトスピーチを叫ぶのとはわけが違う。むしろ肯定的に受け取る可能性は十分ある」と感じる。

 実際に採用する側はどう感じるのか。

 大手化学メーカーで採用を担当する幹部は「デモが就職に不利なんて、いつの時代の話ですか。学生がデモに参加したかなんて調べるヒマもリソースもありませんよ」と一刀両断。「うちの会社には学生運動出身の役員も何人もいますし、私もキャンパスの学長室で座り込みをしていて写真を撮られました。もう30年以上も前かなあ」と笑う。(後藤遼太)