■金融政策 私の視点

 ――浜田さんは内閣官房参与として、安倍晋三首相に経済面で助言をしてきました。安倍政権の経済政策「アベノミクス」第一の矢として実行された、日本銀行による前年比2%上昇の物価目標と、大規模緩和の現状をどう見ますか。

 「僕はあくまでも国民生活に一番響くのは雇用だと考える。雇用環境がひっぱくしているという現状がある限り、物価の細かいパーセントに一喜一憂する必要はない。物価目標は消費者物価指数(CPI)そのものではなく、エネルギーと食料品を除いた『コアコアCPI』とするべきだ」

 「現在、石油価格がまた下がりそうで、上がっていく公算が小さい。だから、石油価格が現在の2倍だった時に作った目標を墨守すべきとは思わない。コアコアCPIが大体2%に行くように運営すればいい」

 ――日銀は2013年4月に大規模な金融緩和を始めましたが、開始後2年を過ぎても「2年程度」の期限を掲げ続けています。

 「それについてもあまりこだわる必要はない。ただし、金融緩和自体は続けていい。労働市場や金融市場が過熱してきてはじめて、金融緩和をやめて出口に向かう戦略を進める必要がある」

 ――17年4月には10%への消費増税が予定されています。ただ、前回の8%への増税時に景気に与えた悪影響は非常に大きなものでした。増税後は景気低迷から物価上昇の伸びが鈍る可能性があり、金融緩和の手じまいが増税後に遅れる恐れはありませんか。

 「前回消費増税をした時に景気に与えた悪い効果はかなり強かった。だからこそ、もう一度増税をするためには緩和を続けた方がいい。ただ、増税に関して僕が重要だと思うのは別の点だ。先日新幹線で焼身自殺をした年金生活者がいた。年金では食べていけないと言っていたそうだ。アベノミクスで景気が良くなって、雇用が増えてはいるが、まだ困っている人々もいる。そういう人たちのために、『第四の矢』と言ってもいいが、食料品は非課税にするとか、給付付きの税額控除を地域振興券の形で配るとか、17年の消費増税時にはセーフティーネットの配慮が必要だ」

 ――1ドル=125円近辺まで進んだ円相場の水準はどうご覧になりますか。

 「今は購買力平価で見ると円安方向にずれているが、これは日銀の金融政策が拡張的だからだけではなく、米国の金融政策が将来、緊縮的になるだろうという予想の結果も大きい。相場について日銀の黒田東彦総裁に全て責任を負わせる必要はない」

 ――日銀は物価目標が達成できたあかつきに、本当に金融緩和の出口に向かえるのでしょうか。

 「『この道はいつか来た道』と、歌のように戻っていけばいい。金融政策は、雇用のため、国民所得のため、経済成長のため、インフレを抑え込みつつ実施していかなければいけない。ただ、問題は政治的に出口に行けるかどうかだ。出口政策を進めれば金利は跳ね上がり、国債保有者には、様々な波及効果は出るだろう。それが大変なのはわかるが、債券保有者のために金融政策があるわけではない」

 「出口の局面で日銀が含み損を抱えて、国庫納付金の減少を通じて国民負担につながるという議論がある。だが、よく考えれば、日銀は国債を買うことで政府の負担を肩代わりしていたわけなので、国民生活全体から見ればほとんど問題がない」

 ――日銀企画局は大規模な金融緩和の効果として、国債の大量購入と物価目標を掲げたことにより、物価上昇率を差し引いた実質的な金利を下げた点を強調しています。こうした見方は妥当でしょうか。

 「これだけ株価が上がっており、おかげで消費が刺激され、担保価値も引き上げられている。こうした『資産効果』も無視できないはずだ。金融緩和の効果を金利の引き下げ効果だけで説明しようというのは、古い日銀の考え方だ。日銀内部には『隠れ白川(白川方明前総裁)派』がいろいろなところに潜んでいるように見える。黒田さんが総裁でなくなったときに、日本経済を15年間続いたデフレに回帰させて国民をこまらせないようにするため、やはり日銀法は改正しなければいけない」

 ――国内経済が比較的堅調ですが、海外経済の変調による影響が懸念されています。最近中国で起こった株式市場の暴落をどう見ていますか。

 「中国の株価が1年で2・5倍になった理由がわかりにくい。政府の支えで上がったとすると、めっきはどこかではげる。実質的な産業の隆盛なしに、あれだけ価格が上がったのだから、調整があるのは当たり前だ。リーマン・ショック時には、米国のサブプライムローン問題を価格メカニズムで解決しようとしてもすぐにはうまくいかなかった。だからといって、何から何まで党がコントロールすればよくなるというものでもないと思う。いずれにせよ中国は日本の最大の隣国だ。成長軌道に戻って欲しい」

 ――仮に中国経済が変調を来した場合、日本にどのような影響が想定されますか。

 「注目すべきは、中国の金融政策の動向だ。なりふり構わず中国が金融緩和をすれば、その影響は日本にも回ってくる。一時的に円高につながり経済の需要を減らし、デフレの方向に持っていく可能性はある。ただ、日本に対する影響は日銀が追加緩和をすれば相殺することができる。可能性は低いが、中国が金融緩和をせずに持ちこたえようとすれば、貿易が縮小して日本の実体経済に悪影響が出てしまうのではないかと思う。中国経済が低迷すれば、向こうでものが売れなくなると同時に、日本からも買ってもらえなくなる」

 ――安倍政権は6月末、20年に基礎的財政収支をプラスにする「骨太の方針」を策定しました。ただ、前提となるのが名目3%と高めの成長で批判もあります。

 「民間が借金の繰り延べを続けることは普通はできないが、政府には絶えず納税者がいるからある程度繰り延べられる。予算の大部分が利払い費になるような状況ではなく、言われるほど危機的状態にはない」

 「日本の国内総生産に対する政府債務は240%程度と言われるが、政府が持つ名目資産だけでも差し引けば130%程度まで下がる。この数字が少ないとは言わない。だが、毎年毎年債務が減る方向に持っていくことが最も重要で、今経済成長で税収が増えているのだから、20年という時期にこだわる必要はない」

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 はまだ・こういち 1936年生まれ。東大法・経卒、米エール大院経済学博士課程修了。東大経済学部教授、米エール大学経済学部教授、内閣府経済社会総合研究所所長などを経て2012年12月から内閣官房参与。米エール大名誉教授。(聞き手・福田直之)