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■就活する君へ

 JR中央線・西国分寺駅の近くに、カフェ「クルミドコーヒー」はあります。乗降客数がそれほど多くない立地ながら、グルメサイトのカフェランキングでは上位に入る人気店です。経営する影山知明さん(41)は、まったく分野の違う外資系コンサルタント、ベンチャーキャピタルの共同創業を経て、今に至ります。影山さんに、仕事のことや就活生へのアドバイスを聞きました。

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 ――カフェを通じたまちづくりをしていると聞きました。

 「カフェを街の中の縁側、お座敷ととらえています。昔は家の内側でもあり外側でもあるような中間領域がありました。『コミュニティー』と声高に言わなくても、そのような中間領域を街の中に取り戻せたら、もっと自然なかたちで人が出会ったり、関わったりすることができるのではないかと。その縁側を現代的に再現するならカフェだろうと思っています。音楽会など店内でのイベントや、国分寺の地域通貨の運営にも取り組んでいます」

 ――影山さんの社会人のスタートは外資系経営コンサルタント会社、マッキンゼーです。どんな就活でしたか。

 「もともと国際公務員や学校の先生など、公的な仕事に興味がありました。そういった方面こそ、ビジネスセンスが求められるだろうと感じていたので、まずはビジネスの世界に身を置いてみようかと思っていました。たまたま学内に貼られていた経営コンサルタントの就業体験のポスターに『1週間参加で10万円』とあったのを見て、応募しました。履歴書の志望動機にも『10万円』と書いて。きっかけは行き当たりばったりでした」

 ――入社して3年で辞めています。面白いと感じていた会社を離れた理由は何ですか。

 「充実していましたが、結果を出せず、劣等感にさいなまれました。大学入学もマッキンゼー入社も、それまでやればできるという感覚を持っていましたので、初めての挫折経験でした。辞めたもう一つの理由は、コンサルタントの仕事を続けていくと客観的な人間になってしまうと思ったからです。人事評価の仕組みが良くできているのですが、自分が何をしたいかより、経営コンサルタントとして期待される存在に自分を高めようとするメカニズムがありました。それを突き詰めていくと言葉はきついですがサイボーグのようになってしまうという疑問も感じました。一方、そのことを反面教師とすることで、仕事をする仲間たちとはそれぞれの主観を生かしあえる働き方、組織の作り方をしようという今の問題意識にもつながっています」

 ――先輩から誘われ、次はベンチャーキャピタルの事業を始めます。

 「ベンチャー企業の創業者には、それまでのクライアントに比べると、これをやりたい、自分の技術や発想で世の中を変えたいというような内発的な動機が強くありました。それに対して資金的・人的に支援します。企業経営のサポートという点ではそれまでとつながっていますが、違和感を感じていた客観的すぎる会社経営というものとは違う事業創造に立ち会えました」

 ――その事業創造の仕事からも離れてしまいます。なぜですか。

 「ベンチャー企業は内発的な動機に基づいて会社を興しているはずが、大きくなり外部資金を調達していくことを通じ、売り上げ目標、経営目標が優先されることが多くなります。問いの立て方が変わって、内発的なものではないものにすり替わってしまう局面に立ち会うことがありました」

 「関わりながら、資本主義のシステムってすごいなと思いました。世に革新を生み、成長を促すメカニズムがある。ただそれが行き過ぎてしまうと、お金に換算しにくい価値がないがしろにされてしまう危険もある。会社がそうなってしまうのは資本主義の仕組みがそうなっているから。それを超える働き方、経営の仕方はあるのではないかとずっと考えてきています」

 ――次はカフェ経営という違う分野に転身しますが、きっかけは何ですか。

 「そもそもは、国分寺の実家が空き家になって建て替えなければならなくなったのがスタートでした。建て替えなければいけないならば、面白い使い方をしたい。それでビルを建てて上階をシェアハウスに、1階はカフェにしようと思いました。そのことを仲間に相談するうち『自分でやったら』と勧められ、『じゃあ』と」

 ――どんなことを心がけて取り組んでいますか。

 「俯瞰(ふかん)的にこんな街にしていこうというアプローチではなく、面白い人、面白い状況をどれだけつくれるか。すごく面白いツブツブが街の中に増えていくことが、結果的に街を面白くする。そういうまちづくりにカフェは向いていると7年間の経営で感じました。人の持っている面白さが引き出される。システムの力学が先行する社会の中では、システムが求める働き方にどうしても人が向かってしまう。その点カフェには個人が自由に集まり、出会いの中からそれぞれの持っている潜在能力が引き出されていく。それらの中にはちゃんと仕事になっていくものだってある。皆がもっている可能性に気づいて、発揮できるきっかけを与えられる場にしたい」

 ――今の就活について感じるところはありますか。

 「最近はキャリアデザインとかキャリアカウンセリングといったものが発達しすぎている。就職に対して何か最適解がある、ベストな答えがあると考えがち。でも、そんなことって実はよくわからない。縁や流れに身をまかせて進んでみたら、後でそっちへ行った意味がわかるようなこともきっとある。自分を呼ぶ声に耳をすますといいと思います」

 「僕らの時代も多かったかもしれないが、なんとなく今の学生は従順なイメージがあると感じます。大学を出て大きな組織で働いていくことが大人になることだと諦観(ていかん)しているか、あるいはそれが嫌で消極的な理由で自分でやりたいことをつきつめるか、前向きなエネルギー、未来への希望が感じられない。学生とやりとりしていて。こういう風にしたい、こんな風になったらいいな、そのために頑張る、というのが感じられない。そこが見えてないつらさがあるのだろうと感じられます。今のまま進んでいくことがいいとは思っていないが、他にどういう選択肢があるかも分からない。しかたないので現状に満足するすべだけ覚えていく」

 ――その状況を変えていくにはどうしたらいいのでしょうか。

 「ちょっとした違和感を大事にするのがスタートかな。就活していて何で同じ格好をしなければいけないのか、何でこんな満員電車で通勤しなければいけないんだろう、など日々の暮らしの中で『なんでそうなっているのか、そうならないためにどうしたらいいんだろう』と考え続けることをやめなければ、気づけることがあるのでは」

 ――就活生へのアドバイスをお願いします。

 「社会人になるときに父親からアドバイスが二つありました。『鈍感になるな』『貪欲(どんよく)であれ』。就活生のみんなにも伝えたい。大きな仕組みの中で身を埋めてしまう中で、もともと好きだったこと、気持ちいいと感じることを殺して仕事をすることにあまり慣れてしまうと、すごく仕事ができる人になるかもしれないが、『あなた』ではなくなる。自分の中の自分の声みたいなものに耳を傾けてほしい。大きな組織でもそうして仕事はできる。もう一つは貪欲であること。決められた仕事以上のこと、ここまでと勝手に自分で自分の可能性に線はひかないようにとアドバイスしたい」

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 かげやま・ともあき 1973年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社。ベンチャーキャピタルの経営を経て、2008年10月にクルミドコーヒーを開業。NHK「NEWSWEB」のネットナビゲーターとして出演。著書に「ゆっくり、いそげ」(大和書房)。

■記者のひとこと

 影山さんは取材中「振り返ってみると、これまでの仕事も今のカフェ経営も、たまたまとか、誘われてとか、流されてはじまることが多い」と話していました。流されて身を任せても前へ進むことができるのは、影山さん自身の中に「流されない」芯があるからだと感じました。

 仕事でのちょっとした違和感に敏感になること。なかなか続けられるものではありません。何も考えず流されるのならできそうですが。(内海智裕)