女優の井川遥さんや人気モデルの滝沢眞規子さんらを起用し、子育て中のおしゃれママからの圧倒的な人気を得る女性誌「VERY」(光文社)。編集長の今尾朝子さん(43)は昨年夏に第1子を出産、今春、職場復帰しました。フリーライターを経て女性誌「STORY」の編集部から、現職に抜擢(ばってき)されて8年余り。母になった敏腕編集長の働くスタイルは、今の社会への挑戦のようにも見えます。

 午後5時半。これから一仕事という人もいるなか、今尾さんの「締め切り」は毎日この時間にやってくる。保育園に1歳の娘を迎えに行くためだ。

 「以前は、24時間寝ている時以外は仕事を受け付ける態勢でした。メールも電話もいつでも」。遅くまで働いても、それが楽しかった。今は朝6時過ぎに起き、保育園に娘を預けてから会社へ。地元の認可園に空きがなく、通園はバスで40分。仕事柄不規則な夫の手は借りず、家から会社までの2時間コースを往復する毎日だ。夜、部下や仕事の関係先との食事や会合に行くこともなくなった。

■24時間型やめた

 VERY編集長に抜擢されたのは2007年。「かわいい」よりも「かっこいい」お母さん路線が、女性の心をとらえた。こだわるのは、リアルで手が届きそうな「半歩先」の提案。就任以降、部数を伸ばし、現在約32万部。30代向け女性ファッション誌でトップを走り続ける。

 編集長になって数年は「まさにモーレツサラリーマン」。しかし、働き方への疑問はその頃から感じていた。雑誌編集の現場は夜型の勤務スタイル。じんましんなど身体の不調も出た。「若い女性部下は、ぼろぼろになっている自分のようには誰もなりたくないはず」。朝に集中して、電車のあるうちに帰る日を増やした。

 そしていま、自ら子育てのためにさらに早く帰ることで、職場の意識も変わりつつあると感じる。職場にいなくても、今はインターネットもバイク便もある。「抱える事情はみんなそれぞれ。若い人たちが、結婚・出産して働くことに不安を持たないで済むようにしなければ」

 いわゆる「ワンマン編集長」タイプではない。普段の語り口もソフトでゆっくりだ。「しゃべるのもトロいし、優等生でもない。たまたま紛れ込んで一生懸命やってたら、こんな風になっていた」と肩をすくめる。

 編集長自ら部員と一緒に路上に立ってアンケートすることも。夜は無理でも、ランチなどで部員らを誘って話を聞く。「自分で想像つくことは、たかがしれている」といい、「ドクチョー」と呼ぶ読者調査を大切にする。グループインタビューではなく1対1か2対1。イベントなどで、話を聞いてみたいママに声を掛ける。「そこでのどんな話も勉強になります」。これまでの職場は皆ワンマン編集長だったという女性部員は「ここに来て、自分からやる気がでた」という。

 「残念です」と静かに言われるのが一番怖い、と部員は口をそろえる。「できるのに中途半端だったりすると、がっかりして言葉が出なくなる。大きな声を出さなくても情熱は伝わります」

■発信したい思い

 10カ月の産休・育休から復帰した今、「VERYの枠から外れるくらい新しいことをやってみよう」とげきを飛ばす。「『半歩先』の新しいスタイルの提案も、それが求心力を持つ間はいいが、定着するとつまらなくなる。だから常に新しい提案が必要」と話す。

 自分の考えやスタイルを声高に掲げるのではなく、背中で見せる――。雑誌づくりだけでなく、働き方においても、自らの行動を見せることで周りが刺激を受けていく。

 今尾さんが考える、女性の仕事と家庭の両立とは。「両立なんて今の日本じゃまだまだできないと改めて思った。頑張って仕事する女性は増えたけれど、脱落するかどうかのギリギリでやっている。こんなのおかしい」。その思いは雑誌を通して発信するつもりだ。「男性社会的な働き方の考えが変わらないと無理。両立を模索している私たちがこれでいいと思っちゃだめなんです」(文・山本桐栄、写真・佐藤正人)