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■特集(就活面接の裏側)

 今年の就職活動では、企業の採用選考の開始が昨年より4カ月遅くなった。大学3年生を勉強に専念させることや、夏前に帰国して就活を始める留学生に配慮して留学機会を増やすのが狙いだ。しかし、実際のところはどうだったのか。メーカーで新卒採用の経験があり、就活に関する著書が多い千葉商科大の常見陽平専任講師(41)に聞いた。

 ――時期繰り下げで、学生や企業にどんな影響がありましたか。

 「『保険』『キープ』『就活休み』という言葉を学生からよく聞きました。今年の採用広報(会社説明会)期間は、実は前年よりも1カ月長いのです。3月広報解禁、8月選考開始なので5カ月間、昨年は12月と4月で4カ月間でした。大企業は選考開始前に学生と接触し、内定出しに近いことをにおわせつつ、学生を引き留めていました。ただ、正式な内定は8月1日からということを守った。中堅・中小企業やベンチャーが6、7月までに内定を出していたので、学生はそうした企業の内定をもったまま大手の選考を待った。求人倍率は1・7倍を超えていて、なんだかんだ売り手市場の恩恵はありました。学生によっては5、6社の内定を持っていた。企業は歩留まりが悪くなることをおそれ、多めに内定を出していました」

 「学生からは『企業から何度も呼び出されて大変だった』と聞きました。企業は『面接』と言わず、『面談会』『意見交換会』『話を聞く会』などと言い、学生を集めました。戦時中に野球で『ストライク』という言葉が、米英の言葉なので使えないので『よし』と言ったようなものですね。それは負荷になった一方で、何度も親身になって相談にのってくれたことで、就職したい会社か判断できたという利点もありました。言ってみれば、抜け駆けではないか、という声もあります。ただ、私は繰り下げたことによってある意味良かったと思うことは、就職ナビ依存型の就活が見直されるきっかけになり、そうしたネットを介さない人と人との接触に採用活動が回帰したことです」

■若者、リアルな接点求めている

 ――なぜ、繰り下げが回帰につながったのでしょうか。

 「経団連の指針に沿い、就職ナビの開始時期も繰り下げになり、それ以前に学生と接点を持とうとする企業が水面下で動きました。昔ながらのリクルーターも多く動いたようです。ネット上での学生とのやりとりは、外にもれるおそれもあります。実はここ数年起こっていた変化なのですが、優秀な学生ほどネットには集まらないということも言われています。ネットで判断せず、直接先輩などに会って、口説かれて入っていくんです。さらにいまの若者がリアルな接点を求めていることもあると思います。音楽ではライブが人気だったり、ハロウィーンのようなイベントが好きだったりと、若い人たちに本物を見て判断したいというニーズがある。若い人にとってはネットは当たり前過ぎるので、逆にリアルな接点の価値が増しているのではないでしょうか。企業にとっては、8月以前に内定を持っている学生が多く、フライングして選考に踏み切ったからといって、必ずしも学生の最終的な採用につながるとは限らなかった。就職ナビは限界に来ていると思います。誰でも自由に複数の企業に応募ができるようになった。その結果、企業には大量に応募が来ることになり、学歴による選別などを水面下で行わざるを得なくなっている。また大手企業を中心に、就職情報サイトを介さなくても情報発信ができるようになっている」

 ――経団連は時期の修正も示唆していますが、どう考えますか。

 「混乱はしましたが、今回の繰り下げが良かったのか悪かったのかはまだ判断できません。繰り下げの狙いは、学習時間の確保と留学の推進です。やや意地悪な言い方ですが、そういう大義名分、錦の御旗を振りかざしたのだから、その狙いがどの程度達成できたのか。その検証をしないまま、混乱を理由に見直すのはおかしいと思います」

 「ただ、留学に行かない一番大きな理由は経済的要因です。就活のせいではないです。実際多くの企業で留学をした学生のために別枠を設けています。学習時間を阻害しているものは、学生生活そのものです。大学生協のデータをみると仕送りの額が減っているのは明らかで、アルバイトに追われている。一人暮らしをさせてもらえず、遠距離通学が増えている。しかもいまの大学は楽勝じゃない。私の授業でも課題を多く出しています。出欠もコンピューターで管理する。私が学生のころにあった事件ですが、『佐藤君は人気ものだから3人が代返して、あっという間にばれた』ということはいまはありえません(笑)。いろんなことが現実を見ない建前の議論で、みんなが望まないものになってしまった。ただ、学生や企業、大学が今年と同じスケジュールで来年の就職活動に向けて動き出しているので、来年から修正するのは難しいでしょう。第一、留学に行ってしまった学生はどうすればいいのですか」

■2月に広報、5月に選考開始がもっとも学業を阻害しない

 ――そもそも、ルールは必要なのでしょうか。

 「ルールでしばる難易度は増しています。そもそも1997年に就職協定が廃止になったのも、現実との乖離(かいり)だけではなく、インターネットの普及、規制緩和などが理由でした。ベンチャーや外資系企業が増え、それぞれ就活の手法やニーズは異なります。大学数も800近くに増え、学部もさまざまで、地域差もある。ただ、ルールがないと動けないというのも事実であることは今年の混乱が証明しています。結局破られるかもしれないルールをなんとなく作っておく、というぐらいしかできないんじゃないか」

 

 「個人的には2月に採用広報活動、5月に選考を始めるのが一番学業を阻害しないのではないかと考えています。2月半ばから始まれば、大学入試シーズンと重なるので学内セミナーが開きづらいというデメリットはありますが、学生の期末試験とは重なりません。5月に選考を始めれば、その後の卒業論文にも専念ができます。前提としてインターンシップで企業や社会の動きを知ることが大切です」

■社会人に会うのが就活必勝法

 ――来年のスケジュールがいまだ見えず、不安を感じている学生も多い。いまはどんなことをすれば良いのでしょうか。

 「就活がうまくいく学生は、早くから始めています。早く、といっても大学3年生の夏で十分です。いわゆる面接やエントリーシートの対策をするのではなくて、社会に出るんだということを意識し始めるだけで良い。たとえばインターンシップに参加して、すごい学生がいる、社会人は面白そう、会社はこう動いているんだなどと感じてください。あとは社会人に会うことです。たとえば新聞記者はこんなイメージを持っていたけど会ってみたら、営業職と変わらない要素があるなとか、20代後半の記者でもこんな経営者に取材ができるのかとか。ブラック企業をたたいている新聞記者が一番ブラック企業みたいな働き方をしているんだなとか(笑)。そうすると、リアリティーが湧いてきますよね。昔もいまもこれが就活必勝法です。社会を意識するようになると、大学での勉強もいまよりもっと面白くなっていくはずです」(聞き手・篠健一郎

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 つねみ・ようへい 1974年生まれ。リクルートや玩具メーカーなどを経て独立。2015年4月から千葉商科大国際教養学部専任講師。専門は雇用・労働、キャリア、若者論。『「就活」と日本社会』『「意識高い系」という病』『エヴァンゲリオン化する社会』など著書多数。

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