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 南アルプスにつながる山あいに寸又峡温泉(川根本町)はある。源泉を掘り、湯治客を迎え始めて数年の温泉場は、全国から注目される事件現場になった。

 1968年2月。ライフル銃とダイナマイトを持った男が旅館に押し入り、宿泊客や経営者家族らを人質に取って約88時間にわたり籠城(ろうじょう)した。

 男は押し入る数時間前、金銭トラブルから清水市(当時)で暴力団関係者ら2人を射殺していた。一連の事件を起こしたのは在日韓国人2世の金嬉老(故人、本名・権禧老)だった。

 朝日新聞のカメラマンだった福永友保(70)は、東京から応援で現地入りした。

 山中を進んで旅館に迫ると、金が旅館経営者の家族を解放する瞬間に出くわした。「記者だ。話が聞きたい。入っていいか」「旅館の持ち主に聞け」。震える経営者が首をわずかに縦に振ったように見えた。

 編み上げ靴にベレー帽姿。ライフル銃を手にした金は2階の客室でひとり、七輪を抱えていた。そばにはダイナマイトの導火線。畳を上げて盾代わりにし、人質を別室に集めていた。

 籠城中には、記者会見やテレビへの電話出演もした。「警察官の朝鮮人差別を告発するために事件を起こした」などと主張し、生い立ちを語った。事件は同時進行で報道され、「日本初の劇場型犯罪」とも言われる。5日目の午後、記者団に紛れた捜査員がとびかかり、金は逮捕された。

■「事件で有名になったのは事実」

 当時大学生だった在日本大韓民国民団県地方本部議長の金勇(67)は、県内に里帰りしていた時にテレビでヘリコプターからの現場映像を見て、驚いた。県内の民団幹部は寸又峡で金を説得したが、事件後は多くを語らなかったという。「差別されている在日の気持ちを代弁してくれたという声も一部にあった。ただ、犯罪という形で主張したり正当化したりするのを擁護はできない」と話す。

 県警の前線本部は近くの温泉ホ…

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