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 肌に潤いを与え、地肌に優しく洗髪にも向いているとして、女性や中高年男性に根強い人気がある外国製のせっけんがある。発祥地はシリア北部の都市アレッポ。反体制派や過激派組織「イスラム国」(IS)が入り乱れる内戦が続き、現地を心配する愛好者の声がネットなどで広がっている。懸命に取引を続ける輸入元は「一刻も早い平和を」と願う。

 アレッポのせっけんの主原料はオリーブオイルとローレル(月桂樹(げっけいじゅ))オイル。釜に入れて数日間たいた後、1~2年間熟成させて作る。無添加・無香料で知られ、千年以上の歴史を持つとされる。

 日本にも20年ほど前から本格的に輸入され、デパートや化粧品店の店頭のほか、ネットショップや通販サイトでも人気がある。輸入元は数社あり、商品名も様々だが、小売店など約50社に卸している「アレッポの石鹼(せっけん)」社(東京都福生〈ふっさ〉市)が有名だ。

 太田昌興社長(45)が、仕入れ先で創業350年の老舗アデル・ファンサ社の工場を最後に商談で訪れたのは2011年2月。約30人の従業員が働き、街も平穏だった。だがその後に内戦が波及。電気や水道などインフラが破壊され、11年12月の釜たき工程を最後に生産はストップ。連絡手段もメールしかなくなった。

 太田さんの会社の在庫は半年分ほどで、小売店などには出荷調整をのんでもらわざるを得ない状況に。「入手できなくなるのか」「買いだめした方がいいのか」といった問い合わせも相次いだ。

 14年1月、アデル社はアレッポから100キロ以上離れた比較的安全な街に工場を新設し、生産を再開した。だが、現地の物価高騰から、太田さんの会社は希望小売価格を500円から630円(ノーマルタイプ200グラム)に値上げせざるを得なかった。

 ネットでは「今まで買っていた店からなくなった。工場はどうなったのか」「このままでは手に入らなくなるかも」「アレッポの人々のために買おう」といった書き込みが目立つ。太田さんは「取引先のほか、一般の人からも『工場の人は大丈夫ですか』とよくお尋ねがあります。見知らぬ国を心配する人間の優しさに感動します」と語る。

 太田さんの手元には、自社の創業15周年記念に作ったアレッポの写真集がある。美しいモスクや市場といった世界遺産の街並みと人々の笑顔が並ぶ。「がれきになった街をテレビで見ました。生命力があり、圧倒されるほどエネルギッシュな都市だったのに」

 シリアでは様々な勢力が入り乱れて攻防が続く。メールでアデル社の担当者に「大丈夫か」と気遣うと「大変だが頑張っている」といった非常に短い返事が戻ってくるという。

 いつの日か平和が訪れ、アレッポでの生産が再開されると太田さんは信じている。「歴史上、何度も戦火に巻き込まれながら脈々と生き続けてきた街。きっといつか、元の活気ある街に戻ると思います」(高原敦)

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 〈アレッポとシリア内戦〉 ユネスコ(国連教育科学文化機関)によると、アレッポは世界最古の都市の一つで、4千年ほど前から地中海とメソポタミアを結ぶ交易中継地や軍事拠点として栄えた。1986年に世界遺産に登録。内戦は2011年、アサド政権が民主化要求運動を武力弾圧したことから始まり、すでに22万人以上が死亡した。アレッポも激戦地になった。ISの勢力拡大やテロを受けて、欧米諸国やロシアも空爆などの軍事行動を展開している。