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■イチオシ RIO2016

 陸上短距離界に彗星(すいせい)のごとく現れたサニブラウン・アブデルハキーム(16)=東京・城西高2年=は、恵まれた素質で躍進するエリートなのか。それは彼の一面でしかない。

 2015年11月、東京のナショナルトレーニングセンターに、20年東京五輪での活躍が期待される「ダイヤモンドアスリート」に選ばれた若手選手が集った。リーダーシップを身につけ、競技力向上につなげる狙いで、政治家・小泉進次郎氏の講演を聴く場だった。真っ先に挙手したサニブラウンは、こう尋ねた。「小泉さんの強いハートというか、精神力はどこからくるのですか?」

 いつも平常心でいたい。だから聞きたかった。父親がガーナ出身で、いやが応でも目立ってしまう。15年に成績がブレークし、人生が一変。制服のブレザーを着こなして人前に出る機会も増えた。優雅で落ち着いて見せているが、湖面に浮かぶ白鳥と同じで水面下では必死だ。「安定した心持ちで人前に立てるようになりたい」と常々話す。

 心の問題に関心が向くのは、弱かった過去があるから。城西中2年の終わり、1カ月ほど部屋に引きこもった。先生からのメールに返信せず、家族の呼びかけにも応じない。母親の明子さん(50)は仕事から帰ると、食器が下げてあるのを見て、食事をしているのだけは確認できたという。

 競技への熱意を失いかけていた。中学入学時に162センチだった身長が180センチ近くまで伸び、急成長に伴う痛みで走れない。大会には1年以上、出られなかった。周囲には「俺はもうだめかも」と漏らした。

 息子には「やめるなら自分で言いに行きなさい」と厳しかった母は、息子が慕っていた陸上部の先輩たちにはひそかに相談していた。母が近くのファミリーレストランに呼び出してくれた先輩たちと、サニブラウンは何時間も語り合った。心の痛みも成長痛も止まり、練習に戻った中3から、快進撃が始まった。