【動画】「ティーチ・フォー・ジャパン」代表理事・松田悠介さんから受験生へ=瀬戸口翼撮影

 偏差値の高い大学に行きたいのはなぜ? 合格した後、大学で何がやりたいの? 学歴偏重の教育に熱く疑問を投げかける元体育教師がいます。松田悠介さん(32)。教師を経てハーバード大教育大学院で学び、現在はNPO法人の代表理事を務めます。世帯収入や地域による教育格差の解消に取り組む松田さんは、大学をモラトリアムの場としてとらえる考え方を「違う」ときっぱり。「やりたいことのヒントは過去にある」と語ります。

     ◇

 日本大学文理学部体育学科と早稲田大学商学部に合格して、迷わず日大に進学しました。体育教師になりたかったからです。

 中学のとき、勉強が苦手で、体が小さくて運動もできず、いじめられていました。そのとき救ってくれたのが体育の先生でした。いじめっ子を叱るとか、そういう助け方ではなく、「松田、どうやったら強くなれると思う?」「体を大きくするためには、どういった食生活や生活習慣がいいのか調べよう」といったように。半歩先を照らしてくれるような指導でした。1年ほどでいじめから抜け出し、相変わらず成績はさっぱりでしたが、体育の授業だけは大好きになった。高校時代は陸上部で100メートル走にどっぷり。将来は体育教師になると周囲に公言していました。

 第一志望は早大人間科学部スポーツ科学科。当時、2回振られた女の子が早大志望だったので、見返したい気持ちもあって早大商学部も受けました。それと日大文理学部体育学科。その結果、早大商学部と日大文理学部体育学科に受かり、体育教師になりたいから日大に行きました。

■やりたいことは過去から見える

 私は大学でやりたいことが明確だったから、迷わず進路を決められた。日本の子は、やりたいことを大学で探すと言いますね。それは、違う。教員をやっていたからわかりますが、そういう風に進学した子は、たとえ偏差値の高い大学に行ったとしても就活でつまずきます。目的がなくて進学しても、結局、大学1、2年の時に、飲んで騒いで遊んじゃうだけなんです。

 でも、就活を目の前にすると遊んでばかりではいられなくなります。ようやく自分が本当にやりたいことは何だろうと考えざるを得なくなる。でも、もうそのときには遅い。考える時間も力もないんですよ。だから、また同じように有名企業ばかり50社も100社も受ける。そこで内定したとしても、今度は入社してから「こんなはずじゃなかった」となる。本当にやりたいことを考えるのを先送りしているだけなんです。

 じゃあ、どうすればやりたいことが見つかるのか? どうなるかわからない未来のことを考えるのは、つらいし難しい。だってわからないから。ヒントは過去にあります。過去の喜怒哀楽を思い出してみてください。私の場合は、いじめられたという怒りと悔しさ。体育の先生に助けられ、体育の授業が大好きになったという喜び。そういった中高時代の喜怒哀楽が結びついて、もっと多くの人に体育を好きになってほしいな、自分の体験を伝えたいな、と思って体育教師になろうと考えた。

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大の卒業式で行った有名な演説に「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできない。できるのは、後からつなぎ合わせることだけだ」とあります。未来はゼロから描くのではなくて、過去から見えてくるのです。

■仮説を立てたら行動しよう

 やりたいことが私のようにそこまでしっかり定まらなかったとしたら? まず仮説を立ててみよう。本が好きとか、文章を書くことが好きだったら、文学部かなとか。花が好きとか、家庭菜園が趣味だったら農学系かなとか。それくらいでもいい。

 仮説を立てたら、それを学べる大学を調べてみよう。今の時代、ネットでカリキュラムがわかる。どんな授業を受けられるか、どんな教授がいるか、わかる。じゃあ、今度は教授の論文を読んでみる。実際に大学に行くのもいいね。雰囲気もわかるし、教授と会って話ができるかもしれない。どんどん行動してみよう。そのプロセスがワクワクするものだったら、きっとその仮説は正しい。仮説が正しくなかったら修正していけばいい。

 一番良くないのは、例えば早稲田大学の政経・法・商・文……といったように、ただ偏差値とか憧れとかで選ぶこと。法学部に行きたいなら、慶応大も中央大も日大も、といったように各大学の法学部について調べて行動してみて、一番ワクワクした大学を選ぶべきです。これは大学選びだけじゃなくて、就活でも一緒ですよ。

■大切なのは志、「心が指す方向」

 受験勉強はつらいと言われます。じゃあ、つらい時ってどういう時でしょうか? モチベーションが維持できていないときです。山登りと一緒です。山登りはしんどい。でも、山頂が見えていれば違います。富士山の山頂が少しずつ近づいていると実感できたら、明日は○○合目まで登ろうと計画を立てたり、山頂ではどんな景色が見られるだろうかと想像したり、モチベーションが維持できます。

 大学受験も合格を山頂と見るのではなく、やりたいことを山頂と見ていれば、モチベーションが変わってくるでしょう。やりたいことのために大学に行くことが明確なら、そのための勉強だと納得できる。いい大学に行け、いい大学に行けと言われても、やりたいことが見えていなければ、山頂も見えないのにただ歩け歩けと言われながら樹海をさまようようなもので、つらいだけ。運良く合格にたどり着いたとしても、燃え尽き症候群になって、次も登りたいとは思わないでしょう。

 受験本番まで残り時間は少なくなりました。山登りだって必ずしも順調に進むとは限りません。予期せぬアクシデント、天候不良、いろいろな要素が絡みます。不安になることもあるでしょう。でも、大丈夫。たとえ1、2年、遠回りしたって、長い人生においてはわずかな期間です。

 それよりも全力でやることです。中途半端にやると「もっとやればよかった」と後悔します。全力でやり切ってこそ、悔いは残らないのです。出てきた結果に納得できるのです。そして、大切なのは結果よりも志です。「心が指す方向」です。それをしっかり定めて下さい。

■子どもには力がある

 教育を志す者として、親御さんにも伝えたいことがあります。ここまで読んで「そうは言っても18歳くらいでは、やりたいことを定めることはできないでしょう」と考えたあなた。それは大人の決めつけです。子どもには無限の力と可能性があります。必ずあります。大人が勝手に決めつけて、子どもの可能性に勝手にふたをするから、その力が発揮できないのです。

 もっと子どもに期待しましょう。子どもに大人の決めつけを押しつけるのではなく、何度も何度も「やりたいことは見つけられるぞ、可能性は無限だぞ」と伝えてあげましょう。そして子どもが動き出したら、「大丈夫だよ、やってみようよ」とそっと背中を押してあげることです。「やればできるじゃん」もいい言葉ですね。その一言が子どもの「自分もやればできる」という自己効力感になります。同じことをやるにしても効力感や肯定感を持ってやることで、より質の高い結果につながります。

 子どもを信じることで、親御さんにとってもたくさんの「気づき」があるはずです。教育は「共育」なんです。(聞き手・佐々木洋輔)

     ◇

 まつだ・ゆうすけ 1983年、千葉県松戸市生まれ。日本大学文理学部体育学科卒。東京都内の中高一貫校の体育教師や、千葉県市川市教育委員会の職員を経て、ハーバード大学教育大学院に進学、同大学院修了。教育格差の解消を目指して貧困地域や教育困難校に教師を派遣する「Teach For America(TFA)」のプログラムをモデルに、NPO法人「Teach For Japan(TFJ)」を2010年に設立、代表理事に。現在、TFJの選考・研修を受けた39人が、連携する九州や関西などの自治体の公立小中学校で教師(常勤講師)として勤務しているという。著書に「グーグル、ディズニーよりも働きたい『教室』」(ダイヤモンド社)。32歳