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 2013年3月、神戸市にある自宅近くの総合病院を受診する夫(59)に、妻(56)は付き添った。夫はまぶたが下がり気味になっていて、勤め先から表情がおかしく、もの忘れもあるようだと電話があったためだ。体に力が入りにくくなっており、パーキンソン病と診断された。

 病名を伝えられたとき、医師はパソコン画面を見つめたままだった。妻が「これからどうすれば」と尋ねても、「普通に暮らせば大丈夫」としか答えてもらえなかった。

 しばらくすると、夫は存在しないものが見える「幻視」が繰り返し現れるようになった。だれも入っていない自宅のトイレの前にじっと立ち、理由を聞くと「順番を待っている」と答えた。食卓では、亡くなった自分の父親が妻の隣にいると話した。不安になった妻は総合病院で医師に再び尋ねたが、「よくありますよ」と言われた。

 看護師でもある知人のケアマネジャーに助けを求めた。「遠いですが」と大阪市旭区にある「松本診療所ものわすれクリニック」を紹介された。

 13年8月、夫婦は電車で1時間ほどかけて訪ねた。松本一生(いっしょう)院長は、ソファに座っていた夫の前にしゃがみこみ、「一緒に、病気に向き合いましょう」と語りかけた。

 妻は幻視の相談をした。松本医師は夫が幻視を怖がっていないのを確認し、「(夫の)顔の近くでパチンと手をたたいてみてください。消えるかもしれません」と助言してくれた。試してみたら、消えた。