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 米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市の市長選が、17日に告示される。普天間の同県名護市辺野古への移設計画をめぐり対立を深める翁長雄志(おながたけし)知事と安倍政権の「代理戦争」の構図。ただ、翁長氏側が争点化を狙う辺野古移設の賛否で真正面から火花を散らす展開になっておらず、有権者の間には国政の争いが持ち込まれることへの戸惑いも広がる。

 「(辺野古移設は)国が強権的にやっても10年、15年はかかる。その間放置するのは、これこそ普天間飛行場の固定化。とんでもない話だ」

 11日、宜野湾市内であった新顔の志村恵一郎氏(63)陣営の集会。あいさつに立った翁長氏は政権を批判し、「万が一敗れれば、辺野古反対の沖縄の民意は消えたと、東京では100倍、200倍の勢いで宣伝される」と力を込めた。

 選挙戦は、翁長氏が事実上擁立した元県庁職員の志村氏が、政権と協調する現職の佐喜真淳(さきまあつし)氏(51)に挑む一騎打ちになる見通し。国が県の反対を押し切って辺野古移設を進める中、市民の判断が注目されている。24日の投開票に向け、前哨戦は過熱している。

 辺野古移設阻止を掲げて政権と対立する翁長氏にとって、この選挙は重要だ。沖縄では一昨年の名護市長選以来、辺野古移設反対派が知事選、衆院選と主要選挙を制してきた。だが国は昨年10月、埋め立て本体工事に着手。今回の選挙で流れが止まれば、対決姿勢に水を差しかねない。

 今月3日には翁長氏自ら自家用車のハンドルを握り、市内を回った。陣営幹部は「知事の危機感は相当なものだ」と漏らす。背景には、「辺野古反対」を県政の大きな柱とする翁長氏側が争点設定で現職を攻めあぐねている現状がある。

 佐喜真氏側は「普天間の危険性除去」を訴えつつも、徹底して「辺野古」というキーワードを避けている。7日の公開討論会では、辺野古移設への賛否を明らかにするよう迫る志村氏に対し、佐喜真氏は明言しなかった。支援する自民党県連関係者は「安倍政権と同一視されたら、『政府対沖縄』という土俵に乗ってしまう」。国が移設計画を進める中、争点外しを狙う戦略だ。

 代わりに佐喜真氏は、税収増や米軍基地の一部返還など現職としての実績を主張。国と二人三脚でディズニー関連施設の誘致を打ち出すなど、振興策に訴えを絞る。さらに、額賀福志郎・元財務相や茂木敏充・自民党選対委員長ら党幹部が沖縄入りするものの、企業や業界団体を訪ねて支援を要請するだけで、街頭演説は「封印」。一地方自治体の首長選との位置づけを演出している。

 「佐喜真氏は安倍政権が全力で支援する候補であることを市民にわかってもらう」(志村陣営)、「政府とケンカばかりする翁長氏の手法ではダメだと訴える」(佐喜真陣営)――。告示を前に争点はぼやけ気味で、辺野古移設の是非を問う選挙になるかは見通せず、「国との距離」をめぐるさや当てばかりが強まっている。

■有権者に戸惑い

 かつてない注目が集まる今回の選挙に、有権者からは戸惑いの声が漏れる。

 普天間飛行場のすぐ近くで生まれ育った自営業呉屋力さん(48)は、新顔に投票するという。「『宜野湾市民は辺野古移設に賛成』と受け止められてしまうのは困るから」

 飛行場内に祖父から受け継いだ土地を持つ軍用地主。14年前から、地権者の子や孫の世代でつくる団体に加わり、基地の跡地利用に期待して将来像を練ってきた。だが返還は先が見えず、沖縄の苦しみを訴える翁長氏に共感を覚える。

 市長選の争点は経済振興など身近な政策であるべきだとは思う。一方で選挙結果が翁長氏の闘いの腰を折ることも心配する。「政府につくのか、知事につくのかが問われている」

 自動車販売業を営む前森一夫さん(48)は、市長選を通して「辺野古の賛否」が問われることへの違和感がぬぐえないという。自身は辺野古移設に賛成の立場だが、「賛否は宜野湾市民ではなく、名護市民が決めること」と話す。

 佐喜真氏の任期中に、米軍西普天間住宅地区の返還や、普天間飛行場の一部返還の合意が実現。前森さんは変化を感じている。「今回の選挙で示されるのは、『今の市長にあと4年やらせるかどうか』という民意。それを『辺野古賛成』に置き換えて、民意を横取りしないでほしい」

 市の東部に住む主婦(32)も「辺野古」を意識しない。「沖縄の将来が問われるといっても、話が大きすぎてよくわからない」

 夫、3歳の長女と3人暮らし。5年前に結婚し、基地のフェンスから300メートルの場所にある3DKのアパートに住んだ。米軍機の飛行経路からは離れており、基地を意識するのは、朝夕の渋滞が激しいときに「返還されたら道路ができて解消するかな」と思うときくらいだという。

 一番の関心事は待機児童問題。佐喜真、志村両氏はともに認可保育所を増やすと訴えるが、政策に大きな違いが見えない。「聞こえてくるのは政治姿勢の違いばかり。本当は、身近な問題の議論を聞きたいんですけれどね」(吉田拓史、上遠野郷、磯部佳孝)

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