川崎市内の女性(73)から市情報公開条例に基づき、教科書採択に関する会議の録音データの開示を求められた市教育委員会が、請求後間もなくデータを消去していたことが分かった。市教委は当初、データ開示を拒否。女性の異議申し立てを受けた弁護士らによる市の審査会が調査し、消去の事実を確認した。

 審査会の資料などによると、女性は2014年9月24日付で、8月30日にあった市教委の会議のデータを請求。会議は公開されていたが、録音は市教委が不許可とした。市教委は約2週間前にも採択の会議を開いており、15年度用の教科書として実教出版の「高校日本史A」を望んだ市立高2校に再考を要求。30日には2校が改めて選んだ別の教科書が採択された。「日本史A」には国旗掲揚や国歌斉唱に関して「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」との記述がある。

 開示を請求された市教委は9月30日付で、データは「会議録を作成するための手段として補助的に用いたものにすぎず、開示の対象とはならない」と回答。女性はこれに納得せず、「データは公文書で開示すべきだ」として11月11日付で審査会に異議を申し立てた。

 市教委は審査会に対し、「会議録を担当する職員が個人的なメモとして録音したもので、公文書ではない」などと改めて主張。データは、開示請求があった1カ月余り後の10月31日に消去したと説明した。審査会の調査でもデータが存在しないことが確認された。

 双方の主張を検討した審査会は、録音に使われたICレコーダーは市教委が管理し、会議は公開できない内容ではなく、市条例が「市の情報は公開が原則」と定めていることなどを理由に、15年12月22日付で「データは開示すべき公文書だった」と結論づけた。

 その上で、消去した市教委の対応について言及。開示請求を受けたことで、市教委はデータが公文書だとする見解があると知っていたのに、あえて消去したと指摘。さらに、市教委の規則で、公文書は開示や非開示を決めた翌日から1年間は保存すると定められているとして、市教委の対応を「市条例と規則の趣旨をないがしろにするものだ」と再発防止を求めた。

 女性は朝日新聞の取材に対し、会議録は実際の発言に加筆修正してまとめられるので、正確な議論を知るためにデータを請求したと説明。「消去は情報の隠滅。(6人の)教育委員の発言にやましいことがあったのではないかとの疑念を持つ」と話す。市教委の三橋秀行総務部長は「隠す意図はなく、データは公文書との認識がなかった。対応が甘かった」と話した。(河井健)

■川崎市教育委員会の録音データ消去を巡る主な動き(審査会の資料などによる)

<2014年>

8月17日   市教委が会議で「高校日本史A」を望んだ市立高2校に対して再考を求める

8月30日   市教委が会議で市立高2校が選んだ別の教科書を採択

9月24日   女性が市教委に録音データの開示を請求

9月30日   市教委が開示請求を拒否

10月31日  市教委がデータを消去

11月11日  女性が審査会に異議を申し立てる

<2015年>

2~9月    女性と市教委が審査会に意見、説明

9月18日   審査会事務局が調査し、データが存在しないことを確認

12月22日  審査会が「データは公文書」と判断