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 認知症で徘徊(はいかい)中に列車にはねられて死亡した男性(当時91)の遺族に対し、JR東海が損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)が2日、当事者双方の意見を聞く弁論を開く。今春にも予想される判決の内容によっては、高齢化社会が進む中、在宅介護の現場の対応に大きな影響を与えそうだ。

 事故は、2007年に愛知県大府市のJR東海道線共和駅で起きた。市内に住む男性は、当時85歳の妻と同居。長男の妻が、介護のために横浜市から近所に移り住んでいた。長男の妻が玄関先に片付けに行き、男性の妻がまどろんだ隙に、男性は1人で外出。駅のホーム端近くの線路で、列車にはねられた。男性は重度の認知症で、要介護4の認定を受けていた。JR東海は遺族に、振り替え輸送費など約720万円の賠償を求めた。

 訴訟で争点となったのが、責任能力がない人の賠償責任は「監督義務者」が負うと定める民法714条の規定だ。13年8月の一審・名古屋地裁判決は、横浜市に当時住んでいた長男が「介護方針を決めていた」として、監督義務者としての賠償責任があると認めた。男性の妻にも過失を認め、2人に請求通りの約720万円の支払いを命じた。

 一方、14年4月の二審・名古屋高裁判決は、長男について「20年以上別居しており、監督義務者とはいえない」と指摘。夫婦には助け合う義務があると定めた民法の別の規定を根拠に、男性の妻にだけ監督義務を認めた。ただ、「充実した在宅介護をしようと、見守りなどの努力をしていた」として半額を減らし、妻への支払い命令は約360万円にとどめた。

 上告審で男性の妻側は、男性が線路に立ち入ると予測できなかったことや、85歳だった妻の監督能力などから免責するよう求めた。一方のJR東海側は「介護に責任を持っていたのは長男で、実質的な監督義務者だ」などと主張した。二審の結論を変える場合に必要な弁論が開かれることから、最高裁が何らかの形で二審判決を見直す公算が大きい。認知症で責任能力がない人に対する親族の監督責任について、最高裁として初めての判断を示すとみられる。(市川美亜子)

■年老いた妻への重い義務、疑問

 立命館大法科大学院の吉村良一教授(民法)の話 子どもに対する親の監督責任は、これまで幅広く認められてきた。だが、認知症の人の事故で「夫婦だから」という理由で年老いた妻に、それと同様の重い義務を負わせるのには疑問を持つ。一方で、被害者救済の観点から、こうした事故で誰も責任を負わなくてよいのかということを考える必要もある。最高裁が二つのバランスをどう取り、判断するかに注目している。

■事故をめぐる経緯

2000年   愛知県大府市に住む男性に認知症の症状が現れる

  02年3月 家族会議を開き、横浜市に住んでいた長男の妻が、男性の介護のために単身で近所に転居

  07年2月 要介護4の認定を受ける。施設入居も検討したが在宅介護を選択

     12月 男性が外出し、JR共和駅の線路で列車にはねられて死亡

  10年2月 JR東海が遺族に損害賠償を求めて提訴

  13年8月 名古屋地裁が長男と男性の妻に、約720万円の支払いを命じる判決

  14年4月 名古屋高裁が妻のみに約360万円の支払いを命じる判決

  16年2月 最高裁第三小法廷で弁論