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 川崎市の河川敷で昨年2月、中学1年の上村(うえむら)遼太さん(当時13)が殺害された事件で、殺人と傷害の罪に問われた無職少年(19)に対する裁判員裁判が4日、横浜地裁で結審した。検察側が懲役10年以上15年以下の不定期刑を求刑し、弁護側は懲役5年以上10年以下が相当と主張した。検察側の論告、弁護側の最終弁論の要旨は次の通り。

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 【検察側の論告】

 ①犯行態様について

 被告と無職少年(18)、元職人の少年(18)の3人が上村さんをカッターナイフで切りつけ、元職人の少年が顔をコンクリートに打ち付けるなどした。

 上村さんは首回りだけで31カ所、全身では計43カ所にも及ぶ傷が見つかった。致命傷は首の左にある傷で長さ16センチ以上、深さ1~2センチ、幅は広い部分で4・5センチにも及んだ。態様はただただむごいの一言だ。

 気温5・2度の真冬の多摩川で泳がせた。1回目に泳がせた時、頭が水面に浮かんでくる頻度が減り、溺れそうになっているのを見て、被告は「おもしろくね」と言って笑っていた。

 最後に弱り切っている上村さんの首の左を切りつけ、元職人の少年が虫の息の上村さんを足で川の方に転がし、全裸にした状態のまま立ち去った。哀れみなどの人間的な感情が感じられない犯行だ。

 ②被害結果について

 上村さんは目に涙をためて「ごめんなさい」というように口を動かした。どれほどの怖い、苦しい思いだったのか、検察官の私でも表現できる言葉が見つからない。

 上村さんはわずか13歳の若さで命を奪われた。発見されたのは護岸斜面から約23・5メートル離れた場所だった。立ち去った後、瀕死(ひんし)の状態でありながらそこまで移動して、なんとかして生きて家に帰りたかった。156センチの幼さばかりが残る少年が瀕死(ひんし)の状態で真っ暗な河川敷を1人で草地まで移動し亡くなった。かわいそうでならない。ご遺族は苦しみが癒えない日々を送り、その悲しみは筆舌に尽くしがたい。

 ③犯行動機や経緯について

 昨年1月17日未明、被告は横浜市港北区日吉本町の駐車場で上村さんの顔を拳で殴ったとされる。この事件を以下「日吉事件」という。日吉事件自体、態度が生意気だという理由で5歳年下の上村さんを殴り、正当化できる理由はない。

 上村さんが日吉事件のことを知人に話してトラブルが生じたことなど、全ては上村さんが悪いと考え、ほおを切った。被告が上村さんに怒るのは筋違いの逆恨みだ。切りつけた後、後に引けなくなり、保身のために殺意を抱くようになった。上村さんに何の落ち度もなく、被告の身勝手な考え方がうかがえる。

 ④犯行後の事情

 上村さんの服や靴を燃やして証拠隠滅を図るなど、自分たちが犯人であることを分からないよう工作し、悪質だ。

 ⑤被告の役割と立場

 上村さんに対する強い怒りを抱いていたのは被告だけで、河川敷に連れて行き、致命傷となった首の左側の大きな傷も被告だ。元職人の少年や無職少年に切るように指示したのも被告で、証拠隠滅の方法も考えた。役割は最も主導的で、主犯格として重い責任を負う。

 ⑥一般情状

 まだ中学1年生の被害者に一方的に暴力を振るう二つの事件を起こした。少年事件の中でも特に残虐性の高い事件だ。

 ⑦求刑

 少年事件の中でも特に悪質性が高い事件だが、被告人自身、罪を認め、謝罪している。突発的に生じ、計画的犯行とは言えない。

 犯行態様はあまりに残酷で被害者に与える絶望と苦痛は重い。改正された上限を持って臨むべき事案で、懲役10年以上15年以下の不定期刑に処する。

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 【弁護側の最終弁論】

 ①犯行に至った被告の悪循環

 厳しいしつけの父親がいる家庭で、安全感・安心感、共感性が欠如した。小中学校時代の友人関係でも暴力が存在し、暴力以外の解決方法を知る機会がなかった。

 被害者の知人らが自宅に押しかけた体験、事件前にもつきまとわれた体験がトラウマになり、狭いコミュニティー内で支配・被支配関係が生じた。

 知人らに対する怒りを、告げ口したと考えた被害者に転嫁した。さらに偶発的にカッターを渡されたことで、「ヤキを入れる」心情が本質的に変容し、仲間の少年らが手伝ったことで引き返せず、被害者の知人からの報復を恐れて、さらに暴行をやめられなくなる悪循環に陥った。

 ②犯行様態と悪質性について

 多数の切り傷は、力が入らず、1人でできなかった逡巡(しゅんじゅん)の結果。一つひとつは致命傷になり得る強力な切りつけでなく、被害者を泳がせた行為も他の少年の発案だ。

 ③殺意の程度

 鑑定医によると、突発的に発生した殺意に基づいて切りつけた。被害者の知人らに対する恐怖から、やめられずに継続して切りつけるという悪循環に至ったため、強い殺意ではない。

④動機・経緯について

 被害者が知人に、被告の連絡先を教えたことに対する恨みは、被害者に「ヤキを入れる」動機の経緯に過ぎない。殺意に発展したのはカッターナイフが差し出された偶然による。

 ⑤被告の役割

 被告が主導的だったが、元職人の少年によるカッターナイフの提供が不可欠な役割。少年らが実行行為の分担をし、さらに協力したことで引くに引けなくなったので、1人では成し得ない犯罪だ。

 ⑥犯行後の事情

 証拠隠滅の口裏合わせは極めて稚拙で、被告の未熟さの現れ。ことさらに悪質と評価すべきでない。

 ⑦被害者遺族への謝罪

 被害者遺族への謝罪の意思があり、今後の償いを考え続ける覚悟がある。

 ⑧更生可能性(再犯の恐れがない)

 被告の問題点が裁判で明らかになったことで、着実に向き合い始めている。指導に従う素直さもあり、安定した人間関係のもとでは、十分に矯正可能だ。

 ⑨捜査への協力

 捜査当初より犯行を認めて、全容解明に協力している。事実関係について自発的に供述する姿勢で、本件に向き合っている。

 ⑩家族の監督

 これまでの接し方の問題点を改善し、被告を支えていく意欲がある。家族間の人間関係そのものは円満であり、今後の受け皿として機能する。

 ⑪日吉事件について

 素手による犯行で、加療期間も比較的短期。日吉事件単独で想定される量刑を上回る刑を加算すべきでない。

 ⑫求刑

 以上のことから、被告の刑は懲役5年以上10年以下が相当だ。