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 店に入ると、貼り紙の多さに気おされるかもしれない。店内で電話は厳禁。「守っていただけない方はお帰りいただきます」。子連れの親にも子どもに目配りするよう注文を付ける。目的はただ一つ。「おいしい料理を提供するため」。だからリピーターが多い。知る人ぞ知る埼玉県春日部市の「注文の多い料理店」が開店7周年を迎えた。

 「注文の多い料理店」といえば、つとに知られた宮沢賢治の童話で、猟師が危うく調理されそうになる「山猫軒」。もちろん違います。こちらは牛肉100%のハンバーグとステーキ専門店「モーモー亭」(大沼1丁目)。小さな店だ。

 スタッフは3人。シェフの男性(42)は以前、外回りの仕事で全国を訪ね、好物のステーキを食べ歩いた。どこにどんな牛肉の産地があり、ブランド牛以外にもおいしい肉があることもわかった。

 ステーキ・ハンバーグ専門店の開業を決め、県内で修業を始めたのが2008年12月。包丁の握り方もわからない調理の素人で「肉の切り方、焼き方など一から覚えました」と話す。

 09年2月、現在地で開店。最寄りの春日部駅からは遠く、駐車台数も限られている。厨房(ちゅうぼう)を含め約66平方メートル、客席数は14と狭い。セールスポイントは「おいしさだけです」。

 とりわけハンバーグが売り物。つなぎは使わない、だがポロポロと崩れない。挽(ひ)き肉づくりに独自の工夫があるが、企業秘密。産地にこだわったステーキは素材のうまみを出すため、味付けは塩とこしょう、独自のソースだけだ。「ハンバーグもステーキも他店ではまねができないはず」とシェフ。

 その味をガードするのがフロアマネジャーの柴田宏美さん(40)だ。元は客の一人だったが、11年にマネジャーに転じた。

 柴田さんがすぐに気付いたのが食事以外での客のマナーの悪さ。都内ですし店をしていた父を子どもの頃から手伝い、客を見分ける目は身についていた。

 頭を痛めたのが、子ども連れだ。待ちきれない幼児がソファの下を蹴ったり歩き回ったり。「鉄板の熱い肉を持っているから危ないんです」

 何よりも、月に100人を超えるリピーター客に嫌な思いをしてほしくない、との一心で心を鬼にした。「携帯電話の店内通話は他の客がいなくても禁止」「音の出るゲームもNG」。気が付けば店内が貼り紙だらけに。ネットで「貼り紙の多いうるさい店だ」と書き込まれたが、意に介さなかった。

 柴田さんは客あしらいの手際も鮮やか。注文を聞く、料理を出す、水のおかわり、コーヒーを出す……。タイミングが絶妙だ。その秘密は、毎日更新している「お得意さまリスト」にある。好み、曜日、時間帯、単独か同伴かなどを記録と記憶にとどめている。

 「すべてはおいしいお肉を楽しく食べていただくためなんです」(春山陽一)