30年前、NHKドラマ「真田太平記」では、赤い甲冑(かっちゅう)がトレードマークの真田幸村を演じ、幸村の女性人気を不動のものにした草刈正雄さん(63)。2016年の大河ドラマ「真田丸」では幸村の父・昌幸に扮し、かつて共演した丹波哲郎氏の当たり役に挑戦する。その意気込みを語ってくれた。

 ――今回、「真田丸」で真田昌幸役のお話をもらったときのお気持ちはいかがでしたか。

 本当に驚きました。僕は30年前に「真田太平記」で真田幸村(信繁)を演じましたので、非常に感慨深く、因縁も感じましたね。話をもらってすぐに「真田太平記」で昌幸を演じた丹波(哲郎)さんが思い出されました。当時、若手だった僕には丹波さんの演技はものすごくインパクトが強かった。そのイメージが鮮明に記憶に残っていて、なかなか頭から離れてくれないんです。丹波さんが演じられた昌幸が僕の両肩に下りてきて、重く乗っかってくるんですよ。因縁とともにプレッシャーも感じました。

 ――その因縁の昌幸を演じるにあたって準備されたこと、意識されたことはありますか。

 「真田丸」の脚本が届いて、読んでいると、三谷(幸喜)さんの脚本は、それぞれの役者の個性を知りぬいて書かれている、と僕は感じたんです。緻密(ちみつ)な役作り云々っていうより、「そのまま素直にやれば面白い」「楽しめるぞ」と思っています。

 ですから、三谷さんの作る昌幸像を読んでいくにつれ、丹波さんの昌幸はすーっと肩から昇っていきました。三谷さんの脚本がどんどんあがってくるなかで、少しずつ僕なりの昌幸ができてきたんです。でも不思議なことに、時々、丹波さんのせりふ回しが無意識に出てきてしまう。「ああ、この言い回しは丹波さんだ」とせりふを発した瞬間に気づくんですが、自然に出てきてしまうんですよね。それくらい強烈な演技だったんです。

 ――丹波さんの他に影響を受けたり、尊敬されている俳優の方はいらっしゃいますか。

 僕は小さいころ、よく映画を見てたんです。おふくろが映画大好きだったもんですから、連れられてね。萬屋(錦之介)さんや、勝(新太郎)さんの演技なんかは強く印象に残っています。当時は素晴らしい時代劇俳優さんがいっぱいいたんですね。そういう方たちが折につけ、ふっと思い出されまして。大先生、まさに師匠ですね。

 ――「真田太平記」のころを思い出されることはよくあるんですか。

 プレッシャーがあるんで、そういう余裕もないですよ(笑)。ただ、形というか、昌幸、幸村、信幸(のち信之。幸村の兄)の並びで思い出されることはありますね。たとえば、密談か何かで囲炉裏を親子で囲んでいるときとかね。

 真田屋敷の昌幸の部屋には隠し部屋があったり、いろんな仕掛けがあるわけですよ。そういうのも「ああ、こういうのあったな」ってね。懐かしく感じます。

 ――その思い出深い真田家の物語で心に残るのはどんな場面でしょうか。

 ドラマでの話になるんですが、昌幸は戦の最中に碁を打つんです。丹波さんのときにもそういうシーンがかなりあったんですけど、今回もかなりあるんです。戦で大変だってときに碁を家臣とやり続けて、打ちながら命令を下す。その描写はすごく印象的ですね。

 ――そのシーンは、やはり意識して力が入りますか。

 そのシーンを考えだすと、また丹波さんが肩に降りてきますよ(笑)。「もう向こう行っててくれ」と思いますけどね(笑)。おそらく「ちゃんとやれよ」って見てくださっているんでしょうね。

 ――「真田太平記」では子の立場でしたが、「真田丸」では親の立場です。関ケ原の戦いを前にして、家族とたもとを分かつことに対してはどう感じられますか。

 昌幸はあの時代、必死だったと思うんです。とにかく生き残ること、真田の血を残す、ということだけを考えて動いていた人だったんじゃないかなと思います。どんな手を使っても、何をしてでも、というような。だからはたから見たら「いいかげんな奴だな」と思われていたんじゃないでしょうか。名門から見たら「なんじゃあいつは」みたいなね(笑)。そうであっても構わず、真田の名を残すために必死であったということなんじゃないですかね。

 ――真田家の魅力はその執念にあるんでしょうか。

 それと「義」だね。武将として義を持って死んでいく。真田親子は日本人が重んじる義を持っているんです。そして、真田の名前を残したいという執念。そういう日本人が大好きな、その両方を備えた武将と言えるんじゃないでしょうか。昌幸はそれだけではなく、もっといろんな面を持ってもいますけどね。

■三谷さんの脚本、くすっと笑える

 ――というと、主がころころと代わるなどの苦労ですか。

 武田がなくなって、織田についたりと、今ちょうど昌幸にとって大変なときを撮影しています。今の人にしても、皆さん、そういうことありますでしょ。「あ、こういうこと俺もあるよな」っていうように、素直に演じることができていますよ。

 ――「真田丸」と「真田太平記」で、描写の違い、脚本の色の違いというのは感じられますか。

 「真田丸」の脚本はくすっと笑えるところがちりばめられていましてね。そういった意味では、少しリラックスして演じられています。そして「えっ」と思うことがないんです。「これ本当にそうなのかな」というところがない。せりふはとてもナチュラルに流れていて、それでいておかしい。本当におっかしいんですよ。めちゃめちゃ面白いね。

 ――堺雅人さん演じる幸村は、ご自身の幸村と比べてみていかがですか。

 彼は独特な感性を持っていてね。ひょうひょうとしていて捉えどころのないような雰囲気を出している。非常に魅力的な、僕とはまったく別な幸村像を作っていますよ。これからも楽しみですね。

 ――昌幸目線からすると、なかなかやるな、といった感じでしょうか。

 そうですね、なかなかやりますよ(笑)。彼は独特だからね。他の人にはできないようなことをやってくれる人。これからどうやって幸村が成長していくのか、すごく楽しみです。

 ――兄の信幸についてはいかがですか。

 (信幸を演じる)大泉(洋)さんは今回、クソまじめな役ですよ。「真田太平記」での渡瀬(恒彦)さんもそうでしたが、信幸は真面目で生一本な性格でね。あの大泉さんが、一つも面白いことやりませんからね。全然、大泉さんとは思えない(笑)。でも、一緒にやっていて「やっぱり兄弟2人とも見事だな」と感心すること多いですよ。

 ――親子の関係が魅力の一つでもあります。

 本多正信を演じられる近藤(正臣)さんが、たまたま、堺君と僕のシーンを見てくれていて、「本当の家族に見えるなあ」って言ってくださったんです。ほっとしましたね。

 これはスタッフに冗談で言ったんだけどね、また30年くらいしたら、真田の物語をまたやってくれって。永遠に引き継いでいくようなね。今度は堺君が昌幸で。そうしたら僕は、次は幸隆(昌幸の父)だな(笑)。

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 草刈正雄(くさかり・まさお) 1952年、福岡県出身。70年、男性用化粧品のCMでデビュー。85年のNHKドラマ「真田太平記」では真田幸村を演じ、2016年の大河ドラマ「真田丸」では幸村の父・昌幸を演じる。(朝日新聞出版「武将の末裔 【平成の陣】」から転載)