NHK大河ドラマ「秀吉」(1996年)で主演し、泥まみれの農民から天下を取るまでの豊臣秀吉を、エネルギッシュに「怪演」した竹中直人さん(59)。18年後、「軍師官兵衛」で再び秀吉を演じた。大河ドラマで1人の俳優が2度同じ役を演じるのは珍しい。竹中さんに「秀吉愛」をたっぷりと語ってもらった。

 ――秀吉を2度演じたご感想は。

 僕にとって秀吉といったら、子供のころ大河ドラマ「太閤記」で見た緒形拳さんですからね! まさか自分が演じることになるとは……。それも大河ドラマで2度も。でも、2回も演じるとすっかり秀吉が体の一部のようになってしまうんですね。今はもう一度秀吉を演じ、もっと深く掘り下げたいという思いがあります。

 ――「秀吉」の時は、どんな思いで臨まれたのでしょう。

 秀吉は、ご存じの通り、農民の出で足軽から天下を取った異色の武将です。プロデューサーとは、「とにかくむちゃくちゃ汚くテンション高く、今までの大河ドラマで見たことのない感じでやろう」と話しました。結果、最初は真っ黒になってふんどし一丁でスタート(笑)。衣装さんも、着物の丈をうんと短くして動きまわれるようにしてくれました。きれいな武将が多いなか、汚く無様にできたのはうれしかったですね。

 ――役作りはどのようにされたのでしょう。

 役作りという言葉が苦手です。役は作れません。僕は歴史の資料も一切読みませんしね。台本やセット、現場のスタッフを見て感じ、頭にぱっと浮かんだインスピレーションで演じました。それがああいう話を生んだのです。

 ――演じていて面白かったところはどこですか。

 秀吉は苦境に陥っても、どんどんエネルギッシュになっていくんです。周りからとことん馬鹿にされるけれど、落ちても落ちてもはい上がっていく。それが面白かったですね。朝から夜中までテンションを上げて演じすぎて、貧血を起こしたこともありました。

 その一方で、秀吉は繊細な面も持っていました。がむしゃらだけではないのも、愛すべきところですね。それは、妻のおねの存在があったからこそですが……。

 ――印象に残るシーンは。

 そうだなぁ。信長様の草履を懐で温めるところですね。秀吉の有名なエピソードです。我ながら感動しましたよ、うわ! 緒形拳さんが演じたあのシーンを俺が演じてる!って。あとは、サル、サルと周りにいじめられているなか、渡哲也さん演じる信長様が「サルではない、人じゃ」と言うシーン。その言葉が心に染み入りました。自分が世の中に受け入れられたようで。秀吉はその言葉にずっと支えられていくんですよね。

 ――秀吉にとって信長の存在は偉大だったんですね。

 いろいろ掘り下げていくと、本能寺の変は秀吉が仕掛けたって話もあるようですけれど。でも、信長と秀吉は相性が良かったんだと思います。信長は秀吉に対して本能的に感じるものがあり「この男は何かをなす男だ」と一目置いていたんでしょうね。部下の能力を見通す千里眼もあったと思います。農民上がりの秀吉は、相当ほかの武将たちからにらまれ、ガンガンとたたかれていたと思うのですが、信長様が守ってくれた。愛されていたんでしょうね。

 ――「軍師官兵衛」での秀吉役はいかがでしたか。

 晩年の落ちていく秀吉を演じられたのがうれしかったですね。「秀吉」の時は、天下を取った人生のピークで物語が終わっていくので。僕は、ヒーローは落ちてこそ魅力的だと思っているんです。秀吉は天下人になってから、人生が狂っていく。嫉妬や恐怖に駆られ、自分を邪魔するものはすべて斬り捨てた。狂気の秀吉を表現できたと思います。ただのかっこいい男なんてつまらないですからね。無様になればなるほど演じがありました。だから秀吉は僕の愛すべきヒーローです。

■悲しい秀吉の辞世の句、この男の恋を知りたい

 ――確かに、「軍師官兵衛」では悪そうなお顔をされていたような。

 権力を手にした時、人は変わっていくんでしょうね。秀吉も最初は無欲で一途な思いだけでしたが、天下統一をしてピークに立つと、すべてが「農民上がり」という自身のコンプレックスへと向かっていく。いつか誰かに蹴落とされるのではないかという恐怖心があったように思えてならないです。

 ――衣装も、「秀吉」のふんどしから一転、黄金に包まれました。

「軍師官兵衛」第1話のオープニングで赤と金のきらびやかな甲冑(かっちゅう)を身につけた時は震えましたね。黄金を前にした秀吉の喜びようといったら(笑)。金の茶室を造ったり、とにかく金、金! コンプレックスが爆発し、黄金に憧れていくわけです。もしくは、風水とかの占師が裏にいて、「お前は『金』を大事にしろ」って言われたのかもしれないですね。

 ――次に秀吉を演じるとしたら、どんな秀吉にしたいですか。

 色に狂った秀吉です。秀吉の辞世の句は「露と落ち 露と消えにし我が身かな なにはの事も夢のまた夢」。天下を取った男がなんでこんな悲しい句を詠んだのか。こんな句を詠んだ男の恋を知りたいと思っています。

 当時の時世において秀吉は農民上がりということにかなりのコンプレックスを抱いていた。だから(信長の妹、市の子の)茶々に相当の執念があったと思う。茶々に流れる信長の血と自分の血とを融合させて、後世につなげることにかなり固執していたと思います。お市の方への思いも深くあったと思う。秀吉の恋にもっと視点を置いて演じてみたいですね。

 ――なるほど。今後、ほかに演じてみたい武将はいますか。

 僕は思ったら一途なので。豊臣クンだけです!(笑)

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 竹中直人(たけなか・なおと) 1956年、神奈川県生まれ。俳優、映画監督。80年に劇団青年座に入団。初監督作品「無能の人」(91年)でベネチア国際映画祭国際批評家連盟賞。映画「Shall we ダンス?」など出演多数。(朝日新聞出版「武将の末裔 【平成の陣】」から転載)