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 瀬戸内海の景勝地「鞆(とも)の浦」(広島県福山市)の埋め立てと架橋建設計画について、広島県は正式に断念することを決めた。地元住民らが埋め立て免許を県と福山市へ交付しないように県知事に求めた訴訟の進行協議が15日に広島高裁(野々上友之裁判長)であり、県側が免許申請を取り下げる方針を住民側に伝えた。これを受け、住民側は訴えを取り下げた。約9年続いた訴訟が終結した。

 1983年に策定され、「景観保護」と「利便性」をめぐる論争が巻き起こった計画にピリオドが打たれる。

 広島県は83年、交通混雑の解消などを目的に計画の原案を策定した。計画は約55億円をかけて①江戸期の港湾施設の常夜灯などが残る「鞆港(ともこう)」の浜を約2ヘクタール埋め立てる②港内を横断する長さ約180メートルの橋を架ける③駐車場やフェリーの埠頭(ふとう)を造る――とされた。これに対し、住民らが2007年に「景観が大きく損なわれる」として提訴した。

 鞆の浦はアニメ映画「崖の上のポニョ」(宮崎駿(はやお)監督)の舞台としても知られており、司法の判断が注目される中、09年10月の一審・広島地裁判決は住民側の主張を全面的に認定。「鞆の浦の景観は住民の利益だけではなく、瀬戸内海の美観を構成し、文化的・歴史的価値を持つ『国民の財産というべき公益』」とし、埋め立て免許を交付しないよう広島県知事に命じた。

 この判決後に就任した湯崎英彦知事は12年6月に計画の撤回を表明したが、福山市や推進派の住民からは反発の声が上がった。免許の申請は取り下げられないまま、控訴審の広島高裁は15年5月、訴訟の終結案を提案。住民側の訴えと県側の免許申請を双方同時に取り下げることによる決着をめざしていた。(雨宮徹)

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 〈鞆の浦〉 瀬戸内海の北側沿岸のほぼ中央に位置し、平安時代から港町があったとされる。万葉集にも登場し、円形の港湾や中世~江戸期の街並みや歴史的建築物が数多く残る。広島県知事は2008年6月、埋め立て免許の交付に必要な国土交通相の認可を申請したが、当時の国交相は慎重姿勢を示し、手続きは事実上停止している。県は埋め立て・架橋計画を撤回した場合、県道拡幅で交通混雑を解消▽砂浜の一部に管理道路が付いた護岸施設を設ける――とする代替案を示している。