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 見知らぬだれかに、1杯のコーヒーを贈る。南イタリア・ナポリのカフェが100年ほど前に始めた「恩送りコーヒー」がいま、世界で静かなブームとなっている。気軽に参加できる善意のリレーは少しずつ形を変えながら、日本でも広がっているようだ。

 「ドレッドヘアの人」

 「演劇好きの人」

 東京都世田谷区の「やなか珈琲(コーヒー)店 下北沢店」に入ると、そう書かれた名刺ほどの大きさのカード約80枚が壁際にずらりと並ぶ。この「恩送りカード」を書き込むのは、コーヒーを12杯飲んでスタンプをためた客だ。1杯のコーヒーを贈りたい人の特徴をカードに書いて壁に張る。条件に合う人が代金を払わずに1杯ごちそうになり、同じカードにひと言、感想をつづる。

 店主の谷川隆次さん(35)が参考にしたのは20世紀初頭、イタリアのナポリで始まったとされる「恩送りコーヒー」だ。ホームレスの人たちへの慈善のために、客がコーヒー1杯分の値段を上乗せして支払う仕組みだった。近年、金融危機が広がった欧州で、その試みが見直されている。

 「単に1杯分余計に払うだけでは、おごられる方も気まずい」。2年前、谷川さんがコーヒーを贈りたい相手を指定するひと工夫を加えて始めると、あっという間に広まった。

 「うちの妻へ」と指定した男性、「優勝おめでとう、ホークスファンの人」と書いたスワローズファン――。受け取った人は「この一杯で下北沢がもっと好きになりました」と返した。できたつながりは1千杯分。誰でも読めるように店にファイルしてある。

 予想外だったのは若い人たちがたくさん参加したこと。「アナログなカードを通して人と人がつながるのが、ネット世代に受けたのかもしれません」と谷川さんは話す。