【動画】ライスボウルの決勝TDプレーを解説=大西史恭撮影
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 アメリカンフットボールの日本一を決めるライスボウル(朝日新聞社など主催)。1月3日にあった試合はパナソニックが立命大を22―19で破った。劇的な結末を演出した終了間際の一つのプレーに迫った。

 試合終了まで残り1分40秒。15―19。社会人王者のパナソニックは立命大にリードを許していた。第4ダウンで残り20ヤード。ゴールまでは55ヤード(約50メートル)――。残り時間を考えても、次のプレーで第1ダウンを更新できなければ、敗北が決まる。絶体絶命だった。

 パナソニックの荒木延祥監督は腹をくくった。「次がラストプレー。あれをやろう」。8年間温めてきた秘策に賭けた。

 その作戦は本場米国の大学のプレーを発展させたものだ。QBが短いパスを投げるふりをしてから違うWRにパス。さらにそのWRが後ろのWRにトスする。つまり、2回投げる。RBが走ったり、1回だけ投げたりして陣地を進める攻撃パターンより複雑で、ボールを落とすなどのリスクは高い。しかし、はまれば、一気にTDできる可能性があった。

 この局面。立命大の守備の戦術を指示する池上祐二コーチも、フィールドにいたLB浦野雄大も「次が最後のプレー」とは思っていなかった。エンドゾーンまでは55ヤードもある。「20ヤードを獲得できるロングパスで第1ダウン更新を狙ってくる」と池上コーチは読み、1試合を通じて守ってきたベーシックな戦術を敷いた。ただ、一つだけDBに指示した。「(第1ダウン更新になる)ボールから20ヤードのところから守れ」。焦らずに、自分の立ち位置より前で止めれば良い、というメッセージだ。

 大勝負に出るパナソニックにも不安があった。トスを受ける役のWR頓花(とんか)達也が直前のプレーで負傷していた。荒木監督は一瞬迷う。しかし、「小山(泰史)でいけます」と攻撃担当コーチ。実際、けが人が出ることを想定して、代替選手も練習していた。荒木監督は小山に代えて、プレーを続行した。

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 選手が持ち場に散り、ボールを挟んで相対した。その陣形を見た瞬間、荒木監督は確信した。「いったな」。立命大の布陣はDL、LBが通常通り前掛かりになっているのに、DBだけが後ろに下がっていたのだ。この戦術で最も難しいのは2線目のLBと、3線目のDBの間に12ヤードのパスを通すこと。その後にトスすることを考えても、大きなスペースが広がったのは好都合だ。

 ボールを持ったQB高田鉄男は予定通り、まず右へ投げるふり。これに立命大の選手が必要以上に反応した。余計にぽっかりと空間が広がる。左側から走ってきたWR本多皓二が、内に切れ込みフリーでボールをキャッチ。後ろで守っていたDBたちは、まだ遠い。「普通やったらキャッチして即タックルやったと思うけど、下がってくれてたから余裕があった」と本多。前に走るふりをして反転。右から左へと駆けてきたWR小山に落ち着いてトス。本多へのタックルを目指してきた立命大の守備陣と小山はすれ違った。もう、目の前には誰もいない。サイドライン際を走り、起死回生のTDが決まった。

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 この一戦は最後に同点優勝を狙った立命大のフィールドゴールが外れて幕を閉じた。フィールドプレーヤーの人数超過の反則見落としが誤審とされて話題になったが、両軍はいま結果に異論はない。むしろ逆転TDの印象が脳裏に焼き付く。

 立命大の浦野は落ち着いて映像を見て思った。「あの場面、短いパスのふりに反応しなくてよかったのに、体が勝手に動いてしまった」。冷静にプレーすれば止められたかもしれない。しかし、それを彼らに求めるのは酷だろう。5年ぶりに宿敵関学大を破り、学生王者になった。ライスボウルも在籍する全員が初めて。「頂点」が見えた時、冷静でいられないのも無理はなかった。

 池上コーチは「私が『最後のプレー』と判断して守る戦術をとっていれば止まっていたかもしれない」と振り返る。ただ「あれで良かったんです。戦術ではなく、個の能力で止めたかった。感性で動いてしまうところが、立命守備らしいですしね」。米倉輝監督は「勝った経験がなかった選手たちがよくやってくれた」とたたえた。

 実は、パナソニックの秘策には続きがあった。アメフットは前へのパスは1回だけだが、後ろには何回投げても良い。もし、小山がタックルされそうになれば、やや後ろを並走したRBに3回目のパス。さらに苦しくなれば4回目、5回目……。ラグビーのようにつなぎ、意地でもTDするように練られていた。

 アメフットは準備のスポーツと言われる。パナソニックは劣勢の状況を想定して切り札を用意していた。ライスボウルの勝利は必然だったのかもしれない。(大西史恭