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 作家の谷崎潤一郎、司馬遼太郎らが愛した老舗バーが昨年末、90年を超す歴史に幕を閉じた。神戸ゆかりの文化人らが描いた「壁画」が客を見守ってきたが、取り外されて市に寄贈され、今後公開される。

 店は神戸・三宮の「アカデミーバー」。1922年に杉本栄一郎さんが神戸市灘区で開業し、その後三宮に移転。戦後まもなく現在地に移った。「舶来かぶれ」だったという栄一郎さんが手がけた内装はハイカラな山小屋風で、作家や画家、俳優らのたまり場に。戦前には谷崎や佐藤春夫も通った。

 50年前後、戦争でちりぢりになって戻ってきた画家らが漆喰(しっくい)の壁に、仲間への伝言板のように絵を描いていった。小磯良平や小松益喜(ますき)、田村孝之介、津高和一(つたかわいち)、詩人の竹中郁(いく)ら16人で、縦108センチ、横185センチの畳1畳ほどの大きさにちりばめられた女性像や動物、花などは淡いパステルトーンで調和している。

 阪神大震災で建物は傾いたが、半年後に再開。今回、周辺の再開発のため取り壊されることになった。壁画は今後、修復され、「神戸ゆかりの美術館」(神戸市東灘区)で公開される予定。

 壁画の保存に協力した市立小磯記念美術館の廣田生馬(いくま)・学芸員は「本来なら一緒に描かないはずの人たちの貴重な合作。サロンのように文化人が集まった神戸の歴史的、文化的背景がわかる」という。

 半世紀前に父から店を継いだ杉本紀夫さん(76)は「壁は自分だけのものでないから、つぶされへんと思っていた。美術館に運んでみんなに見てもらえるとは夢物語のよう。『美術館で会いましょう』とお客さんには言うとんねん」と喜ぶ。(安部美香子)