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 大阪市立桜宮高校バスケットボール部の自殺した男子生徒(当時17)の遺族が、市に約1億7千万円の損害賠償を求めた訴訟で、24日の東京地裁判決は約7500万円の支払いを市に命じた。岩井伸晃裁判長は、顧問だった元教諭(50)=懲戒免職=の暴行が自殺の原因と認めた。市は同日、控訴しないことを明らかにした。

 判決は、教員による体罰は「教育上の指導として許される余地はなく違法だ」と指摘。元顧問の暴行や暴言を「著しい精神的苦痛をもたらす虐待行為で違法性は強い」と認めた。

 判決によると、主将だった生徒は元顧問から平手打ちなどの暴力や暴言を繰り返し受け、2012年12月に自宅で自殺。「なぜ僕だけがあんなにシバき回されなければならないのですか」と書いた元顧問あての手紙を残していた。

 判決は、教育現場での「指導死」について文部科学省が注意喚起していたことや、生徒が自殺の5日前に練習で無気力な様子を見せていたことから、「元顧問は異変の兆候を認識しており、自殺予防の措置をすべきだったのに自殺前日にさらに暴行し、危険性を高めた」と批判した。

 訴訟で市側は、「自殺の主な原因は生徒自身の悩みや家族にあった」と主張した。これに対して判決は「市は責任を転嫁する態度に終始し、遺族の心情をさらに害した」と述べ、遺族への慰謝料を増額した。

 判決を受け会見した父親は「判決が納得できる内容でほっとした。現場の教師の方に真摯(しんし)に受け止めてほしい。暴力的指導の抑止につながることを深く、強く望んでいる」と話した。

 判決を受け、大阪市の吉村洋文市長は「厳しい判決だが、一人の尊い命が失われた重大な事案で、控訴はしない。体罰・暴力行為を許さない取り組みを徹底していく」との談話を発表した。賠償の支払いについては、元顧問にも負担を求めるという。(千葉雄高)

■男子生徒の父「真剣に受け止めて」

 「納得できる内容でほっとしました」

 男子生徒の父親(46)は判決後、母親(48)と20代の生徒の兄と会見に臨み、少しだけほおを緩ませた。法廷内では硬い表情を崩さずペンを走らせていたが、判決の瞬間は「天国で見守る息子に『一緒に闘ってくれてありがとう』と声をかけました」と言う。

 生徒が自殺して3年余り。元顧問は2013年9月に大阪地裁で有罪判決が下されたが、罪名は傷害と暴行。暴力と自殺との因果関係は争点にならず、「息子の死と正面から向き合いたい」との思いもあり、因果関係の認定を求め同12月、訴訟を起こした。

 訴訟は苦い思いの連続だった。被告の大阪市は因果関係を認める調査報告書をまとめていたにもかかわらず、法廷では全面的に争った。元顧問も刑事裁判では入廷の際に両親に深く一礼したが、今回の訴訟では視線を合わさなかった。「二度と息子のような被害を出したくない」という思いが遺族を支えた。

 生徒の自殺を受け、大阪市教委は「生徒第一主義」を掲げた部活動指導指針をまとめ、暴力を把握する外部通報窓口を新設。全国でも教育現場から暴力をなくす機運が高まった。だが、昨年には大阪市立の3中学校が元顧問を外部コーチとして招いていることが発覚。「現場には暴力はだめという意識が欠落している」と感じた。

 14年度に体罰で処分された公立学校の教員は952人。過去最多だった前年度の4分の1に減ったが、父親は教員による暴力の報道を目にするたび、やり切れない気持ちになるという。「この判決の内容を現場の教師の方に真剣に受け止めてほしい。暴力的指導の抑止につながることを深く、強く望んでいる」と訴えた。

■争った市、報告書と違う主張

 大阪市は13年1月の生徒の自殺公表後、弁護士ら市外部監察チームによる原因究明の調査を開始。元顧問の暴力と自殺の因果関係について「暴力が大きな要因になった」と認定する調査報告書をまとめた。

 しかし今回の訴訟では「元顧問が自殺を予見するのは不可能だった」と主張。バスケ部主将としての重圧や大学進学をめぐる悩みが「直接かつ最大の原因と考えるのが自然」と訴えた。

 訴訟で調査報告書と異なる主張を展開したことについて、市教委幹部は「再発防止をめざす趣旨でつくった報告書と、市民の税を使う訴訟とでは、議論は違ってくる。元顧問の責任なのか、ほかの要素もあるのではないかと主張しなければならない。報告書を軽視しているわけではない」と説明する。

 判決を受けて、吉村洋文市長は記者団に「因果関係について司法の判断を求めること自体は間違いではない。厳しい判決だが真摯(しんし)に受け止め、二度とこういうことが起きないようしっかり取り組んでいく」と話した。賠償の支払いについては、元顧問にも負担を求めるという。(長野佑介)

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 関西大の赤尾勝己教授(教育学)の話 暴力的指導を続けてきた元顧問の違法性を認定し、生徒の自殺の予見可能性を正面から認めた意義のある判決だ。暴力的指導が生徒の死につながる危険性を広く認めるものであり、すべての学校現場への警鐘となるはずだ。学校や教育委員会がどう対処すべきだったかについて踏み込んでいない点は残念だが、各地の教委や学校は判決を真摯に受け止め、暴力的指導と決別すべきだ。

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■桜宮高校暴力事件をめぐる主な動き

2012年9月 男子生徒がバスケ部主将に就任

12月 生徒が自宅で自殺

2013年1月 大阪市教委が生徒の自殺を公表

2月 市教委が元顧問を懲戒免職処分

3月 大阪府警が元顧問を傷害と暴行の両容疑で書類送検

5月 弁護士らによる市外部監察チームが「体罰放置の一因は市教委にある」とする最終報告書を公表

7月 大阪地検が元顧問を在宅起訴

9月 大阪地裁が猶予付き有罪判決

   市教委が暴力や体罰防止の指針を策定

12月 両親らが大阪市への損害賠償を求め東京地裁に提訴

2014年4月 桜宮高の体育系2学科を再編し、人間性などを重視する「人間スポーツ科学科」を新設

2016年2月 両親らによる損害賠償請求訴訟で大阪市に約7500万円の賠償命令