五輪選手とまでは言わない。でも、子どもには運動好きになって欲しい、得意なスポーツを持って欲しい――そんな人も多いのではないでしょうか。幼児期からちょっと心がけることで、運動能力を伸ばす環境につなげられるようです。

 平日は水泳と体操、週末はバドミントン。2男1女がいる東京都大田区の女性(36)は、小学2年の長男に三つのスポーツをさせる。

 夫婦ともスポーツが好きだ。「世界をみろ!」と家で夫は熱い。そして、「この年代では色々なスポーツをした方がいい」。母親としても、いずれ何かのスポーツに打ち込めるよう、今は基礎的な運動能力をつけさせる時期なのか、そろそろ一つの競技に絞り始める時期なのか、知りたいと思っている。さて……。

■習うより遊ぼう

 「小学校低学年までは、特定の運動の上達を目指すのではなく、色々な動きを経験させることが大事です」。幼児期の運動に詳しい東京学芸大名誉教授の杉原隆さんはそう言う。走る、跳ぶ、滑る、ぶら下がる、投げる、捕る、蹴る……。動きを習得し、高い運動神経を養う時期だからだ。

 「それも、大人が教えるのではなく、子どもがやりたがる運動を遊びを通じて自由にさせる方が意欲を高めます」

 杉原さんが2008年に、全国65カ所の幼稚園で行った研究がある。指導する形で水泳、跳び箱などの運動をする頻度と幼児の運動能力を調べた。すると、指導は行わずに砂場、ボール遊び、鬼ごっこなど活発に遊ばせる園の方が運動能力が高かった。

 親は一緒にやったり、見守ったりすればいい。指導は不必要で、運動したくなる雰囲気作りが大切。他の子との勝ち負けを言うのは御法度だ。

 ただ、遊びの大切さは理解できても時間、場所、仲間の確保など簡単ではないのが現実。スポーツ教室を考える人も多いはず。笹川スポーツ財団の昨年の調査では、4~9歳の27%が水泳、9%がサッカー、8%が体操を習っている。「自由な遊びの要素を大切にしているところを選んでほしい」と杉原さん。

 自分に合った競技を見つけて12歳くらいから専門的に練習するのが望ましいことが、様々な研究でわかっているそうだ。

■いろんな競技を

 スポーツ活動をする子どもがいる保護者に向け、情報発信するスポーツペアレンツジャパン代表の村田一恵さんは、米国でトレーナーの勉強をした経験と、自らも3人の男の子の母親としての立場から、複数のスポーツをさせることを勧める。

 「色々な体のパーツが鍛えられ、特定の部位の使いすぎによるけがも避けられる。目に見える成果が欲しくて、特定の競技をさせたくなる気持ちはわかりますが、色々な競技に触れないと何に向いているかもわかりません」

 米国の子どもは学校や地域クラブでシーズンごとに野球、バスケットボール、サッカーなど数種類に参加できる環境になっている。

 子どもが「他のスポーツをやりたい」と言ったら、今の競技をあっさりやめさせていいのか。「『せっかくやってきたのだから』と、そのスポーツにこだわらず、経済面などが許せば、まず並行してやればいい。本当に楽しいならスライドもOK。選択肢を与えることが大事でしょう」

 自由で多彩な運動遊びの中から、子どもが楽しめる競技を見つけられる環境。運動が好きで得意な子を育む道筋はそんなところにありそうだ。(編集委員・中小路徹